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2015-09-09 18:30 | カテゴリ:instagram × 文芸パンク


「オリーブ」


 海辺にはピアノが眠っていた。開いたままの天板にはツバメの巣が残されている、既に巣立たれた跡だ、乾きを持った潮が吹くたびに揺れて微かに音を立てる。

 錆びて声を忘れた鈴のように其れは鳴る。
 誰が聞くわけでもないが鳴らされる音はある。

 落ちるのを待っているかにも見えるが本当は何を待っているわけでもない。時間があるだけだ。そしてそれが止まらず経過してゆくだけだ。

 私は眠っているピアノを導こうと指を添える。鍵盤は粗雑な廃屋の階段のように欠け、満足に鳴ることはできない。
 それでも響いてはいる。喧騒と狂熱と灼熱を浴びた直後の晩夏の楽器は瞬間をまだ記憶していた。
 そう、それはほんの僅か前のことだ、私たちが季節を持ち運ぶことができないかわりに、私たちが風を模倣した生き物は季節を其処に再形成することができる。

 瓶詰めのオリーブをひとつくわえ、種を吐き出す。其れが不器用に鍵盤の上を跳ねて転げる。
 そしてそれは和音となった。
シャボン玉のように浮かび、瞬く間に弾ける。

 背を広げた。空を持ち上げるように。
 肩甲骨から指の先までを、開花の瞬間を早送りしたフィルムのように時間を超越させる、そんな空想で全身を広げる。

 やがてピアノは波に飲まれてゆくだろう、私がそれを見届けることはない。
 地上に於いて詭弁者たちが美しい世界を謳い、心優しき人々を描くころ、私はこの青みを流れ流れて四季を跨いで再び此処へ戻るだろう。
 誰もいない、誰が鳴らすでもないかつてのピアノが待つ渚へと。

 ここではないどこかで、その島のオリーブの種をくわえ、見たものすべてに別れを告げて。




【 了 】






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