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2015-07-10 18:30 | カテゴリ:ショートショート・フィクション

「風鈴」


 タイミングを逃して眠れないままの今朝はまぶたが重くてカーテンを開けても光が射していることを感じられなかった。
 別にそれはそれで良かった。

 昨日の夜、室内灯が灯った瞬間、窓に映った私たちの小さくささやかなシルエットとなにも載っていない空のテーブルのことを思い出す。
 去年の夏のことを話しながら、それはやがて今年の夏に繋がって、ボウルいっぱいのサラダを食べ終えたあと、ボウルの底に溜まった水に浮かぶオイルに白い電球が反射していた。
 ひとつ夜を通過するたびに私たちは美しいものと美しくなくなってしまった物事をひとつずつ数え、やがて消えてしまうであろうすべてを葬り、慈しみ、忘れていこうと、とりあえずの結論をアルコールで飲み込んで、それから伝えるべきことをなかったことにする。
 そんな日々に慣れつつもある。

 いつか私たちが見たすべては失われるという当然ながら実感のない事実。
 誰もが知っている、けれど、知っている誰かからそのことを聞くことは出来ない。
 いまはそれが「遠いいつかの事柄」として見当されることもなく、あえて話題にもしないが、それは必ず訪れるのだ。
 どんな経緯にて訪れるのか、それはわからないけれど、「やがて」は必ず訪れるのだ。

 テーブルの上のボウルをシンクに。空き缶を潰すと残っていたアルコールが溢れた。
 テーブルを静かな平原に戻すと、まだ点火されたことのないキャンドルが埋もれていた。
「暗くして点けてみよう」と彼が買ってきたのだけれど、それは火を知らぬまま季節を越えた。
 次の冬の夜にまで眠っててもらおうと思った。また忘れるかもしれないけれど。

 私は風鈴があったのを思い出した、安物のガラスできまぐれにしか鳴ってくれなかった、鈴には聞こえなくて使い古しのスプーンとフォークがぶつかるような音色だった。
 クローゼットをひっくり返すとそれは埃で薄い膜を張っていた、指の腹でそれを撫でる。

 どこにぶら下げていたのか、しばらく考えたあと、それは記憶から溢れてしまっていた、しかたなくカーテンレールに紐を通す。
 風のない弱い雨の朝、揺れる鈴は雨に紛れて、どうにかそれを聞き取ろうと私は目を閉じる。
 去年も確かに私は生きていた。涼やかではない不器用な音色でそれを知る。

 原色の花を揺らして、通りを少年少女が走る。
 太陽と海と緑の、美しい季節がすぐそこにまで近づいているのだ。




 【 了 】 





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