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2015-03-20 18:30 | カテゴリ:ショートショート・フィクション

害虫 【前編】


 刻一刻と過ぎてゆくだけであることを知る、その期間になにを思い、なにを手にしたのか、それに思いを馳せている間にも時間は経過を続けているのだ、冷酷なまでのクールネスで以って。
 ブルーフィルムで演じていたのは粗暴極まる女王であった、ビデオの表紙には真っ赤な紅を引き、黒光りするビニールのボンテージに躰をねじ込んで鞭を構えている自分自身だ、数年前の自分自身だ、いまそれを見れば滑稽に思えるが当時の彼女にはそれが自分に相応しい姿だったのだ。

 安っぽくて毒々しくもある、いくつかを手にして順に眺め、ひとつずつをラックに返してゆく。棚板が割れて揺れる。片づけずに放置したままのサラダボウルで害虫が溺れていた、腹を見せて微かに脚を伸縮させている。

 羽根があるくせに飛べなかったあんたが悪いのよ。彼女は言う。もっとも、いくら飛ぶことができてもやがては墜ちる。どこを着地点に定めているかなど時間は考慮してはくれない。
 たいして変わらない。私とあんたとの間にはそれほどの差はなかったのよ。
 仕事を抜きに愛した男を一匹ずつ思い出してみる。トランプのカードをめくるみたいに、顔とそいつを表す記号を一枚ずつ眺めてゆく。ここのところ夜の日課になっているがそれが楽しいわけではない、いまの彼女は思い出以外に語る相手がいないだけのことだ。

 チェリストだったあいつ。私はチェロのことなんて何も知らなかったし、知ろうともしなかった。私のビデオを見ては不潔だと罵って潔癖さをアピールした、けれど、あられもない姿で絶叫する自分の所有物(だと勘違いをしていたのだ)に興奮していることに私は気づいていた。
……いまはもういない。楽団をクビになったあと、いくつかの仕事を転々としたが最期は煤に汚れた作業着で首を吊っていた。

 盗品故買者だった男は黴くさい名画や名書の手書き原稿を保管していた蔵の火災で死んだ、彼よりも彼が商品として手に入れた数々が焼失したことだけが惜しまれた、盗っ人である彼の死は私でさえも悼むことはなかった。

……手にしたつもりでいながら、彼よりも彼に大金をもたらした紙に価値があったのだ。けれど、本当のところ、その価値は誰にもわからない。
 芸術的価値がお金になる幸福な時代に生きることができただけ、やつは恵まれていたのだ。
 いま、そこに価値を見い出す酔狂者はいない。価値は認めてもカネは出せない、出さない。

 殺し屋だった男。ちょうど彼は自らをジョーカーと名乗った。殺人という行為が特別ではなくなったころに生きてしまったのがやつの不運だ。依頼者からのリストは同業者で奪い合いになり、早く安く確実に(決して秘密をもらさない)任務を遂行するものが重宝された、自らをジョーカーなどと名乗るあいつは時代遅れだった。仲間うちから面倒がられた彼はあろうことか同業者によって蜂の巣にされて死んだ。肉片すらも残らないほどに派手にやられたらしい。

 私はそこでトランプゲームをやめる。この世のほとんどは……その在り方がなんであれ……咲かせるものもなく消えてゆく。死に方がどうであれ、実のところ大差はない。

 花がどうであろうと、それは真実だ。人とは関係がない。真実を覆い隠し、本当の自分などという言葉遊び、言い逃れに収束してしまう。
 美しいと思うものに自らを重ね合わせる傲慢さを何故、滑稽と嗤うものさえいないのか。

 夜明けを待つ前に絶えるか、夜明けの途端に絶えるのか。
 私はどうだろう。徒花であれまるで咲かぬわけでもなかった、だが、美しく思える類の花ではない。私が咲くことができたのは、男たちが夜に息を潜めながら観るブラウン管のなかだけだった。
 人は花を自身になぞらえる。なんと傲慢なことよ。咲く前に倒れる花がほとんどであると知らないのか。
 花が自らの頂点を知り、その後の着地点まで想像しているとでも思うのか。
 価値を口にするものが何ひとつ価値を手にすることがなく、自然を口にするものが何ひとつ自然でさえなく。

 テーブルに散らばったトランプを眺める。
私は花として生きた時間、どのろくでなしに抱かれたかったのか。
 愛などとは口が裂けても言わない。私は制度の外に生きようとした人間だ、愛とはそもそも存在するわけではない、制度が生んだ幻想でしかない。
 私は制度の内側で手枷足枷に気づかないふりをして朝を告げた家畜とは違う、愛なんて必要さえなかった。徒花とて花は花であろうとしたのだ。

 いま、私は神を創造した人を不愉快に思う。
 弱さは良い。醜さも仕方がない。疎ましさですら生き物である証左ではある。
 しかし、だ。
 それを見下ろす何者がいるなどと、なぜ、ホラをホラと見抜くことをしなかったのか。なぜ野生から離れようとしたのか。

 私は思う。
 それが誰かの目に触れぬとも、賞賛など受けぬとも、時間や季節の移りを示さぬとしても。夜に咲いてしまった花があることなど、存在さえなかったとされることを。
 私はそのことを知ってしまったのだ。

 唇に紅を引き、爪に花を添える。鏡のなかの私は咲いていたころの、男たちをひざまづかせた暴君であった私の残響を残してはいる。残してはいるがそれが過ぎたことであると誰よりも私自身がそれを知っている。
 美しく着飾れば着飾るほど、鮮やかな色彩だけが私から遊離している。花であった季節は過ぎたのだ、悲しいが認めざるを得ない。いつまでも咲くことはないのだ、言い逃れさえ滑稽だ、滑稽でありながら私は既に過ぎた季節の自分しか記憶に持たない。

 テーブルの下で裏返しになったカードを踵に踏みにじる。こいつらに狂わされた時間のことを振り返る。そしてふと思った。
「狂わされただけではない。私も狂わせたのだ」
 害虫はどちらも同じだった。





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