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2015-02-02 18:30 | カテゴリ:ショートショート・フィクション

【前編】「君に永久なる永遠を」


 目覚めると見たことのない天井だった、いつものそれより高く白い、そしてチェスの盤のように四角に区切られ、継ぎ目には黒い点々が十字を描くように密集している。
 聞き覚えのない声が聞こえた。ひとりではなく複数いる。ざわつくそれは室内だけでなく、この部屋に繋がる経路……廊下や他室だろうと思う……の床や壁、天井に至るどれもが堅く、冷たいものでできていることを教えてくれる。ざわつき、動揺、悲嘆。構内のあらゆる壁に反射し、僕の感覚へと着水する。

 いまの僕は水だと思った。滑らかで柔らかく、かたちを失いつつある。漂う気配に波打ち、さざめき、やがて溶けて液体となる。僕を繋ぎとめているのは、左上の関節に打たれた細い管。透明の液体が流入し、液体へと変わりゆく僕をヒトのかたちに留めている。
 それは碇であり、杭だ。この世界に繋ぎとめておくための最後の線なのだ。

「気分は?」
 初老の白衣の声が聞こえる。網目が目視できないほどに強く、そもそもが一枚であったかのように錯覚してしまう絹のカーテンの向こうに影が見えた。冷静を装ってはいる、だけど、声の震えは空気を揺らす。くぐもっているのは厚いマスクのせいだろう。
「変わりません」
 僕は嘘をつく。
「ならいい。なにかあればすぐに呼びなさい」
 幾重にも吊られた幕の向こうから医師は言う。わずかな隙間も逃さないように貼られたテープは補修がなされたようだ、僕と僕の周囲は完全に遮断されている。

 ここと向こう側はすでに分断された川だ、行き着く最期が同じだとしても、そこまではそれぞれの水路をたどり、決して交わることがないように別の経路をつくられている。
 僕と同じ水路に進んでしまった、あるいは振り分けられてしまった人々のことを考える。

 運命だという誰かがいた。そうかもしれない。
 天罰だという者もいた。そうだろうか。

 どちらでもいいと思おうとして、咳き込む。受けた手のひらには液体が付着していた。濁って見えた。最初のそれはもっと鮮やかな赤だった。いまの赤はどこかで見たような気がする、僕は記憶を手繰り寄せる。

 記憶はそう遠くなかった。この隔離された区画に連れて来られる前のことだ、道端に倒れていた汚れた毛布を背負っていた誰か(僕はそれを捨てられ絶えた牛だと思ったのだ)が吐き出していた、土に染み込んでゆく途中の溜まりに見た、黒に変貌しつつある赤だった。
 その日を境に、僕たちの世界はふたつに分かれた。生者の水路と死者の水路は交わることのない、ふたつの線に分断したのだ。










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