-------- --:-- | カテゴリ:スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2015-01-27 18:30 | カテゴリ:ショートショート・フィクション


「この世の果てまで連れてって」【後編】


 私は目隠しを解いてもらっていた。
 女だからかもしれないし、話を聞こうとしたからかもしれない。
 手足を縛られ自由に身動きこそできないが、置かれた状況を把握することだけはできた。
 猟銃とナイフ。まだらに汚れが染み付き夜戦向けの迷彩柄に見間違う作業服。よく見ればそれがこの工場の制服にされている安価で粗末な化学繊維のものだとわかる。踵のめくれたスニーカーがパタパタと音を鳴らす。トイレのスリッパを履いている者もいる。そして悲しいほどにそれは彼らに似合っていた。

 彼らはまだ若い。策略なんてない。残念ながら法を超えるような手段を知るような知恵もない。この暴挙の無理を振り返るほどに冷静でもない。家に帰りたがる子供と変わらない。デモを起こせば本気で何かが変わると考える、純粋で愚鈍な子供でしかないのだ。

「おまえは、僕たちが怖くないのか?」
「怖くない。最初は怖かったけど、いまは怖くなんてない。あなたは私と同じ。私はあなたと同じ」
 ふと、衰弱死したスズメの子を思い出した。巣から転落してしまったスズメはインコたちとは共存できず、拾い上げたつもりの命は芯を抜き取られるように痩せ細ってエサ箱で眠っていたのだ。
「同じ……?」
「ほんとうは帰れないって知ってる。もう行く場所なんてないことを知っているからこんなことをしているだけ」
「そんなことは……僕たちは逃げる。逃げて、帰る」
「外は拳銃を持った警察が取り囲んでいるの。空からヘリも睨んでる」

 テレビをつけると私たちのいる建物が映し出されていた。「外国人労働者による凶悪な立てこもり事件」だと報じられていた。ジュラルミンを持った機動隊が円をなし、カメラとマイクを持った報道陣が円になり、その後ろに見物人たちが円をつくっていた。カメラに映り込んだ「善良なる一般市民たち」のなかには笑顔さえ浮かべるものもいた。暇を潰せさえすれば、対象がなんであっても良いのだろう。私たちの誰かが射殺されたとしても、彼らはすぐに忘れて次の暇つぶしを見つけるのだろう。
 幾重にも重なり合った輪のなかで、重なり合うことのない希求がふくらんで弾ける。弾けるためにふくらむ。

「ひとつだけ……」
 私は彼に告げる。
「ひとつだけ、ここから脱出できるかもしれない方法がある」
「もう、もうダメなんだ……」
 彼はすでに悔いていた、テレビに映された自身の顔写真と本名と罪名がそうさせたのかもしれないし、停滞した状況が平静さを取り戻させたのかもしれない。
 取り囲む拡声器と赤いライト、旋回するヘリコプター、すべての色と音。檻のなかで暴れた鳥に突きつけられた麻酔銃。聞きなさい、私は子供の頬を叩く。
「私を盾に外へ出るの」
 そして裏口へ。社用車が停まっている。鍵なら持っている。君は助手席で私に銃を向けていなさい。
「どうして……?」
「君と私は同じ。そう言ったでしょう?」
 なにが同じかはいつか話そうと思った。私たちが生きて逃げることができたら。いま、話すことでもない。
「もう帰れない。逃げるだけ。それでいいでしょう?」
「み、みんなは……?」
 彼は振り返る。疲弊しきった無策な立てこもり犯たち。彼らを連れてはいけない。
「忘れて。ゲームには犠牲者がつきものなの。殺されはしないから安心なさい」
「どこへ逃げる……?」
「そんなの知らない。ここでなければそれでいいの」
 どこへだって行ける。わたしたちの「同族」なら港にいるでしょう。いくらか支払えば載せて行ってくれるでしょう。
 お金だって手にしたばかり。プールされたぶんの口座なら体に教えてもらったの。ついでにクルマごと沈んでもらいましょう。バイバイ、ボス。トランクは寒いでしょう? 冬の海はもっと寒いのよ、私のなかとは違うのよ。

 そう。逃亡に最高のタイミングであらわれたのがあなたなの。
 帰る場所なんてないのよ。私たちは進む以外にないの。そのためにはなにをしたっていい。神様が赦してくれないのなら、私は神様を赦してあげない。

「さあ」
 この世の果てまで連れてって。



【了】  












Copyright (C) 2015 copyrights.billy tanaka All Rights Reserved.


〝Please give me an aid click〟
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へにほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・自作ポエムへ
関連記事
スポンサーサイト

管理者のみに表示する

トラックバックURL
→http://stardustjohnny.blog.fc2.com/tb.php/3164-a7025947
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。