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2014-12-17 18:30 |
カテゴリ:砂時計のクロニクル
「砂時計のクロニクル #3」
時間が止まって、朝がこなくなるなんて考えたこともなかった。それはきっと僕だけじゃない。当たり前だと思っていただけなんだ。あのとき、この世界には当たり前なんてないのかもって僕は思った。
「砂時計が止まってる……?」
それに気づいたのはリヒーナだった。彼女は幼なじみで、ずっと僕と一緒に育った。
「まさか……」
僕も砂時計を見つめる。時間を司るそれは目に見えて分かるほど早く動いたりはしない。
でも、あの日、朝になっても街は暗いままだった。砂時計は重そうに傾いて、そのなかの砂はなぜか流れていないように見えた。
「夜明け……夜明け前で止まってる……」
僕とリヒーナがそれに気づくと、朝を待ちわびた街の人々も集まってきていた。不安げなざわざわと、怖がる小さな子どもたちの泣き声。
冷たい風が僕らの間をすり抜けて、枯葉が坂道を駆けてゆく。眠ったままのニワトリや、うつむいたままに見える花。
「砂時計が止まると朝も来ないんだ……」
僕らはそれを初めて知った、砂時計はこの街に時間を知らせるために動いてるわけじゃなかった。
「砂時計の回転が私たちに朝を、昼を、夜を連れてきてたんだ……」
「じゃあ、このままだと……」
もうここに朝は来ない。そう言おうとしたのに、のどがからからで言葉にはならなかった。
「どうしよう……」
僕はいつだって元気で、いつだって明るい声で、歌ったり笑ったりしてるリヒーナばかりを見てきたんだ。
いまになれば、彼女はずっとそんなふうに振る舞っていたんだと思う。
「どうしよう……」
僕もそう絞り出すしかできなかった。隣の彼女の細い肩が震えてた。
いつも見上げていたような気がしてたのに、そのとき、僕は少しだけリヒーナより背が高くなっていることを知った。変わらないことなんてない。砂時計が廻ったぶんだけ時間は過ぎて、泣いてるばかりだった僕をからかって笑ってた彼女は、いまは僕よりも弱々しく見えた。
【つづく】
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