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2014-12-01 18:30 | カテゴリ:ショートショート・フィクション

「蛇の子供」


 灰色の雪が降り始めると少年は毛玉の目立つ帽子を深く被り直した。
長い睫毛に砂粒のような白が乗る。溶けることも落ちることもなく。
 彼はそれをつまんで捨てた、そして踵で捻じりつけた。
 
 東西へと伸びる街路に灯りが燈り始める、誰かに火を放たれたロールスロイス・ファントムがクラクションで泣き叫んでいた、だが、鎮火される前にそれは爆発、炎上してしまった。
 慌てて逃げ出す者と遠巻きにそれを眺めているものと。しかし両者共に驚きはするものの嘆くことはなく、さながらキャンプファイヤーのように火柱を囲み歓声をあげている。

 少年の視線はその様子に合わされていたが表情は変わらなかった。

 細く小さなその影は夜に飲み込まれつつある、足下の石畳の溝には濃い黄色の液体が微かに泡立ちながら流れてゆく、それは老いたラクダの小便だった、歩くことをあきらめたそのラクダは首に下げていた金の輪を外されて眼を閉じ眠ろうとしている。

 ストリップ小屋と売春宿、サーカスと大道芸人、闇医者と麻薬商人。
 夜に生き場を見つけた蝙蝠か、或いは爬虫類に似た人間があたりを闊歩する、何処かから銃声が聞こえ、それに悲鳴が続いた、ありふれたある夜に過ぎなかった、ありふれた名無しが誰かを殺し、ありふれた名無しが殺されたのだ。

 少年はブランコに座りこんでいる、わずかに揺らしているが鎖は氷柱を下げて軋んでいる、間もなく切れてしまうだろう。
 少なくとも次の戦争が始まる前に。

 足下にランプを置く。
 粗末なうえに薄汚れた靴が照らされている、その靴はわずかな隙間も埋め尽くす、周囲に集った人々に気づいた少年は話し始める。いや、話しているのは彼ではなく、彼がその手に抱いている操り人形だった。

「彼は話すことができない、から、代わりに僕が、話をするよ」
 餌を待つ魚のように人形は口を開閉させる。
「あなたたちは救いを求めています、それぞれに理由はある、けれど、救いを求めていることだけは同じ、皆、同じ」
 群衆は無言でうなづく。いま、救われればさえ良いのだ、鎮痛剤でも麻薬でも良いのだ、この夜を越えることができればいいのだ。

「さっき。ラクダから仕事を奪ったロールスロイスに放火したのは、僕です。売春宿で少女を買おうとした男を銃殺したのは、僕です。少女を売ろうとした母親も撃ったんだけど、急所を外してしまったので、少女にナイフを渡しておきました」

 ぎくしゃくと息継ぎをしながら、人形はそこまで話し、突然、首を垂れた。関節が外れ、落ちた首が雪の上に埋まった。
「次はあなたたちを救ってあげます。明日からまた戦争が起きます。誰も助からない破滅的な戦争です、それで、あなたたちは救われるでしょう」
 頭頂から落ちた頭は口だけがいまだ動いている。

 少年は帽子を脱ぐ。そして眼を開ける。瞼は薄く、上へ閉じ下へ開く。
 瞳孔には刺し傷のような細長く赤い光が宿る。 それは蛇の眼だった。
 彼はポケットから半月状の小さな銀を取り出す。唇に添えると単調な旋律が鳴り始め、そして群衆はいま暴徒に変わる。

 人々は救われたのだ。




【了】  







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