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2014-11-16 12:00 | カテゴリ:ショートショート・フィクション


「告白」


 淋しいと思うことがないわけではない、それがない人はたぶんいない。けれど、それは誰かによって埋めてもらうべき感情ではない。自身によって消化されるべきものであり、空白は自らに依って埋めなくてはならないものだ、だが、それを理解しているものはあまりに少ない。

「昨日ね」
 彼女は秘密を告白したがっている。秘密なら口を閉ざしていればいいのに、私は思う。だが、彼女はそれができない。後ろめたさを共有してもらうことで罪は軽減されると勘違いしているのだろう。

「この間、私、ある人と寝たの」
 彼女は誰とでも寝る。発情期のサルみたいなものだ、だが彼女はその無軌道さを自由と履き違え、アイデンティティだと思っているふしがある。
 私はそれをなんども聞かされる、訊いたことは一度もない。彼女は自分の打ち明け話に価値があるものと思っている。
 けれど、聞く価値のある打ち明け話なんてない。少なくとも私は聞いたことがない。

 あなたが誰と寝ようが私には関係ないわ、そう言おうとしてやめる。身勝手な告白は私の時間や予定を選んではくれない。スピーカーに切り替えたケータイをサイドテーブルに置く。
 私は飲み残していた紅茶をひとくちだけ飲む。口のなかに苦味だけが広がる。

「なんども私は求められたわ、彼も淋しかったのね、きっと」
「相手も発情期だったのね」私は言う。
 人は動物だ、とくに男はそうだ、発情期がないかわりに四六時中、その行為で頭をいっぱいにしている。
 淋しさからそれを求めるわけではない、単純にそれが気持ちいいからだ。彼らは行為が終われば、あっさりと着替えてベッドから離れたがるではないか。

「愛しているってなんども言ったわ」
 スピーカーの向こうの彼女は話し続ける。具体的で扇情的だ、サイズから姿勢から声から、かけた時間、その一部始終を克明に記録したレポートがあるかのように語り続ける、そして、そこに相手の男の標本があるかのように細部にまで告白は及ぶ。

「まだ続く? いま、そんなに時間がないんだけど」
 いい加減うんざりして私はその話を切り上げようと試みる。
「聞きたくない?」
 彼女は薄ら笑いを浮かべているのだろう、卑しく歪めた口元を思い出す。厚い唇に塗った似合いもしないグロスと顎のほくろまで思い出す。

「聞きたい話じゃないわ……あなた、それを知ってて話したがっているでしょう?」
「あなたに話しておきたかったの……」
「どうして?」
「寝た相手はあなたの恋人だから」
「そう……そういうことか」
 私が冷静さを保てたのは、それを容易に想像できたからだろう、彼女に跨って息を荒くする彼の背中、肩甲骨を流れる汗までを私は幻視する。
いつかそうなると思っていた、いままでもそうだったのだろうと思っていた。

「赦して……」
 彼女は言う。
 なぜ赦せると思うのだろう。素直に告白すれば、謝罪があれば、過ちは赦されるべきだと思うのだろうか。
「死ね」試しに私は言う。震えを殺して言う。
「死んで償って」
 彼女は泣いている、しゃくりあげ、赦しを乞う。
「ごめんなさい」
「だから死ねって。そうすれば赦してあげる」
「彼が誘ってきたのよ。私だけが悪いんじゃない」
 それがどうしたと言うのだろう。だからなんだと言うのだろう。発端がどちらにあるかなんて確かめようもない。
「じゃあ、生きて償って」
「赦してくれるの?」
 それには答えず、私は私が待たせている男を呼び寄せる。男というのはなんて単純で幼稚なのだろう、彼女が私の男に抱いたであろう感情が私の体に芽生える。

「いい? 聞きなさい。生きて、聞くのよ」
 好奇心と欲情にだけは素直で純粋な、仰向けの私に覆いかぶさって息を荒げる、淋しげな獣の呻き声と低い嬌声、そして、肌と肌が弾け合わさる音を響かせる。
 思わず漏れる私の声も、きっと彼女に届いているだろう。

 いま、私としているのは、彼女の男だ。
 淋しいかもしれないが、それを誰かに甘えることでしか解消できない、惨めで幼稚で、しかも欲求にだけは従順な、救いのない生き物だ。
「聞こえる?」
 私は彼女に問いかける。忍び笑いが思わず漏れる。
「いま、私は誰としているでしょう?」



【了】  










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