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2014-09-18 18:30 | カテゴリ:ショートショート・フィクション



「水の彼方に」


 水は流れ、そして吹く、私はその軌跡を見ている。
 天が雨を降らせる。雨雲は風によって運ばれてくる。風は遥か古代からやって来て、遠く見果てぬ未来へと続く。
 風は途切れることがない、高みから地を撫でて、曲線を描いて中空へ、歩む人の頬を撫で、そしてまた空高く舞い上がる。
 万物の声を聞き、この世界のすべてを記憶しながら未来へと運んでゆく。

 吹きはじめた瞬間からそんなふうに走り続けてきた、これからもずっとそう。
 私は目を閉じ耳を済ませて、風たちが通った軌跡を感じる、繊細に編み上げられた繊維のように、人類の誕生以前から大地に根をしがみ、太陽の近くまで葉という手を伸ばす大樹のような、その経路。迷路のような、経路。

 私は単なる傍観者として、同時に当事者として波打ち続ける水の呼吸に耳を澄ませ、そしてその声を聴く。
 やがて水は波打つ波紋に訪れてさえいない未来を映し出してくれる。
 どのような光景が広がるのか、人々は私にそれを訊ねる。
 誰が見えるはずのことだ、だが、人々は水や風に何かを問いたりはしない。

 答は誰かに依って与えられなければならないものだと、或いは自分に都合良くなければ聞けないものらしい。
 それが愚かだとは思わない、ただ、人という生命は万能ではなく、偉大でもない。尊大に過ぎるだけだ。

 私は水面に映るすべてを可も不可もない、あくまで中立者としての視点にて変化と不変を可視化することを選択した人ではない生き物だ、ここにいるがどこにも存在しない、粒子として漂うように万象を見ている。

 やがてもたらされるのは終わりだ、すべての命には限界がある、目で見、測り知れる水深は深みではない。
 消えてゆくことは前提なのだ、やがての先にあることや存在の対極にあるものではない。同一線上にある。
 水が深く濃くなる、そこに映る顔はすでに私ではなく、かつて私だった者の痕跡だ、謂わば脱け殻のようなものだ。誰にも見えはしない。

「雨が降る。送られた火を鎮めるのは水の役割なの」
「ここからいなくなるってこと?」
「私は雨そのものに溶けて、どこかへ流れてまた天にゆく」
「僕は……?」
「君はまだ人だから。地に流れて、歩き続けて」

 君が私に問いかける。
 振り返るとそこには体の表面が青く波打つ細いシルエットがいる。液体として万象を傍観するだけになった、君がいる。
 やがてこの彼方へとくる、生命はすべて水へと還る。
 私は指先を水へと差し込む。そのまま世界とひとつになる。





【了】  







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