-------- --:-- | カテゴリ:スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2014-09-06 12:00 | カテゴリ:ショートショート・フィクション
20140905092020380.jpg

「雨傘の海辺」


雨は降りはじめていたけれど、私たちは傘を持っていなかった。旅先で降られるなんて考えもしなかったし、そもそも天気予報なんて見てもいなかった。
夏という季節は騒々しいくらいに灼熱が降るばかりで、見上げれば目の奥に突き刺さるほどの青と直視できない黄金しかないように勘違いしていたのだ。

まだ八月だというのに、その海は風が強くて肌寒く、ひと気もなかった。
私たち季節外れの旅人たちの浮かれた佇まいをよそにその地に生きる人々は静かに穏やかに、足音の聞こえはじめた新たなる季節に向けて備えつつあったのだ。

半袖から伸びる白い手の私たちと日焼けて節ばった骨っぽい腕を長袖に包んだ海に生きる人々。
私たちが抱くどこか身勝手な感傷は、生まれた土地の苛烈さを知りながらそこに生きる背中を前に沈黙する以外になかった。

盆を前後に海辺は景色を変えると聞いた。恵みを祈り、ここに生きた人々の鎮魂を願う紙の舟を送り火として海を慰め、それを境に風の季節を迎える。
波打際には押し返されてしまった一隻が揺れていた。

絹のように滑らかで柔らかい砂のうえを言葉もなく歩き続けた、沈黙に耐えかねたのか、やがてひとりが口を開いた。吹く風と波が言葉尻をさらってゆく。振り返ると足跡だけが数分、数秒前の私たちが確かにいたことを教えてくれた。

いまになれば語り合ったことそのものが幼く稚拙に過ぎるものだったとは思う。
思い返すと耳を塞いでしまいたくなることばかりだけれど、そのときの私たちはまだ幼く稚拙でしかなかったのだからしかたがない。
はしゃぐために訪れて、雨くらいで意気消沈してしまう。
心の行き先を、落ち着かせる場所を、やり過ごす賢さを手にしてはいなかった。
まだ子供だった。一言でいうならそれに尽きる。

巣食う不安のほとんどは杞憂に過ぎ、想像さえしていないイレギュラーに振り回されるのが旅そのもので、それに命を重ねて語るのは容易いことだ、だけど真理の一端でもある。


雨傘を持たずに歩く誰かを見ると、そのころの私がまだ胸に生きていることを思い出す。
高く弾けそうなシャボンのような声、左右にまばらなたどたどしくさえある足跡や、不安を語るときの俯いた視線。それから、紙の舟のなかの願いを。

読み終えた本を閉じるように、私は記憶をたどるのを終える。足跡と足音だけが終わらず続いていた。





STAR ENTRYS

閃 ロックンロール ワールズエンド
天 草原 蟻
ゾンビ 祈り 砂時計


【PR】

Copyright (C) 2014 copyrights.billy tanaka All Rights Reserved.


〝Please give me an aid click〟
にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へにほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・自作ポエムへ

関連記事
スポンサーサイト

管理者のみに表示する

トラックバックURL
→http://stardustjohnny.blog.fc2.com/tb.php/3079-82cb5d2a
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。