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2014-06-21 12:00 | カテゴリ:ショートショート・フィクション


「見上げる先の糸」


 階段を探していたわけではないけれど、ふと見渡せばいつもそれは目の前にある。歩き続け、歩き疲れて、立ち止まりたくなったとき、必ず段差は私たちの爪先の前に現れる。
「上らなきゃダメ?」
 君が問う。
「ここで止まってられないから」
 私は言う。
「上ってしまえば、いまより景色は広がるよ。見てみたくない?」

 沈みゆく太陽が緩いカーブの輪郭をあぶり出す。震える膝をどうにか持ち上げて一段を踏む。ほんの少しだけ視界が高くなって、振り向くと俯いたままの君の頭が見える。

「さあ。ね?」
 私は手を伸ばす。君が手を出してくれるのなら、いまならまだ手と手を繋ぎ合わせることができる。

 もつれて丸くなって部屋の隅に落ちている糸屑のことを思い出す。それはどこか私たちとよく似ている。なぜかと言われても答えられない。どのように手を動かしているのかを聞かれても答えられないのと同じ。
 似ているから、似ている。それだけのこと。

「階段の先にはなにがある?」
 いつだって君は不安げに私を見上げる。一歩を踏み出せないから、私より背の高いはずの君を見下ろすことになる。
 見下ろしているだけ。
 見下してなんてない。
 ほとんど同じ言葉なのに、そこにある差は人を分け隔ててしまう。見下すことなんてないように、視線を真っ直ぐ君に向ける。

「あとひと息だから。深呼吸して、それから一段ずつでいいから」
 言葉はなく君はうなずき、私の手を握る。子供の手じゃない。節が張っていて、滑らかでもなくて、でも、子供のときと同じくらい温かい。

「子供のままじゃいられないから。いたくても無理なの。私たちは生きているからトシをとる、子供のままじゃいられないの。分かるよね?」
「うん」
「いこう? 一番上に着いたら、そこから歩いてきた道を振り返ってみようよ」
「……どうして?」
 誰が見ていなくたって、誰かに認めてもらえなくたって、歩いてきたんだから足跡を感じることはできる。砂場じゃないから靴の底の模様なんて残ってはくれない、何万人が何万歩を重ねてもアスファルトは顔色を変えない。
 それでも、私たちが歩き続けたことを体が覚えてくれている。
 足跡はそこかしこに誰かの道のりを残している。

 燃え尽きて沈む夕陽は明日のために眠る用意を始めている、どんなふうに過ごしても明日は生きるものに平等に訪れる。
 見上げる先には山へ帰るカラスたちが群れていた、地上を嘲るようにアクロバット飛行で空を踊っていた。

 世界の終わりのように思う。
 明日、繰り返しにも思える日が待っていると分かっていて、それでも、今日、また世界は終わるのだ。
 誰かれなく平等に。

 君が恐る恐る一歩を踏み出す。もつれていた糸がわずかに解けて、それから私たちは声をあげずに笑顔を浮かべた。





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