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2014-02-27 07:30 | カテゴリ:ショートショート・フィクション

「あと少しだけ」


 あと少しだけ。あと少しだけでいいんだけどな……右斜め前の短い髪のつむじあたりを眺めながら私は思う。
 その向こう、黒板の右にかけられたカレンダーをじっと睨む。少し目が悪くなったみたいで印字された日数がぼやけて見えた。教科書に押しつぶされそうになっていたメガネ(……振り返られたときに似合っていないメガネ姿を見られたくない……)をかけて残りの日数を確認する。

 私の席は窓際のいちばん後ろ。南に向いていて真冬でも頬が赤くなるくらいあたたかくなる。同じ教室のなかでも廊下側と窓際では見える景色が違う。

 私はこの三年間でいちばん好きな席にいる。背の高さを気にして猫背気味になることもないし、陽射しに包まれてうたた寝だってした、それに。
 それに、右斜め前には三年間同じクラスなのに一度も話したことのない、いつもどこかでその姿を追いかけていた人が座っている。
 春になれば遠くへ進学するって笑ってた。
 話すこともないのかなって、でも、残りの時間に「ひょっとしたら」があるかもしれない、そのときにはメールアドレスを聞かれるかもしれない。

 メガネでクリアになった視界に右斜め前の背中が、小さな頭が映っている。今朝は慌てたのか、寝癖ではねたひと束。一度、コツンとゲンコツをしてみたかったなって思う。
 可愛くもないのに上目遣いを練習してみたり(睨んでるみたいだと言われた)、頬杖をついてアンニュイさを演出してみたり(「夜更かしでもした?」って聞かれた)、お弁当を小さくしてもらったり(お腹が空いて帰りにラーメン食べた)……いろいろ、いろいろとやってはみたんだから。
 だから、と言うのもおかしいけれど、せめて、この席で過ごせる時間が一秒でも長くなればいいのにって、カミサマにお願いだってしてみる。

 卒業式の要項が書かれたプリントがリレーされてくる。彼が振り返る、少し痩けた頬が過ぎた時間を感じさせる。私は慌ててメガネを外すけれど、きっと気づいてないんだろうなって思う。
 
 教壇では先生が残りわずかな高校生活についてのありがたい訓示を述べているところで、でも私はいつもどおり右斜め前の後頭部を見つめていた。

 あと少し。そう、あと少しの間はここでこうしていられる。
 いつかずっと未来、記憶が都合良く書き換えられてしまったとしても、この席で過ごした数ヶ月は忘れたくないなって思う。
「たまにはこっち向けコノヤロウ」って念じ続けた、情けなくて愛おしい時間のことを。




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