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2014-01-23 07:30 | カテゴリ:ショートショート・フィクション

「パープルヘイズ」


……波の上、水鳥、軽やか、駆けてゆく、
輪になる波紋は緩やかに、流れに沿ってふくらんでは消え、
 打つ際にて砕けし水は、浴びたばかりの生きた光を乱れて返す、
 遥か底には転がるのをやめた石、
 呼吸を忘れ、つく
眠り、
 ミドリとアオとキが混ざる黒、
 干上がるまで誰も知らない。

「昔、レモンだったと言ったところでそれを信じる者もなく」

 操業終わりの造船所前、バス停を挟んでガスステーションがある、その向かいにできたばかりの真新しいサンドウィッチ・スタンドではカウンターのなかでコック帽を斜めに被ったマスタード色のエプロンが隠しもせず欠伸をしてた、退屈で眠くて過ぎ去る時間を待つだけだった。

 男がふたり酔っているのかいないのか、持ち込んだボトルは空になっていて、ラベルは雑に剥ぎ取られてた、パンをめくって具をひとかじりしたサンドウィッチはブラインド・カーテンから差し込む朝で鍵盤みたいに見えなくもなかった。
 ふたりが話し合っているのは今年流行る神様のことらしくて、結論は出ないが、なんにしても適当にどれかが流行るだろうと腹を揺すって笑った、カウンターではムラサキ色のドレスを着た女が首に下げたネックレスのパールの数を数えてた、100まで数えて忘れてしまってコック帽にコーヒーのおかわりをねだる、明日は絶対お金払うからって、プラスチックのパールを弄ぶ。
 ノースリーブから華奢な肩が伸びていた、二の腕には少し肉がついていて、パールを数えるたびに小刻みにそれが揺れた、薄い乳白色だった。

 彼らが描いているのは夜とその向こう側であって明日ではない。
 明日になる、明日がくると似て非なるがほぼ変化がなく一日分の時間を経てやや老いる自らを思い描くほどには若くもなく幻想も持ってはいない。
「ピープル・ラブズ・ユー?」
「ピープル・ヘイト・ユー?」
 人畜無害、毒にも薬にもならない店内のBGMが突然問いた、音量は変わらなかったが、そこにいる者々はうたた寝を阻害されたイヌのように飛び起きた。
 カウンター越しに居眠りしかかっていたコック帽の彼女は『店内禁煙』を忘れてマルボロをくわえた、そして先端に赤く灯る火種を上下に揺らしながら答えた。

「アイ・ヘイト・ユー」、「アイ・ヘイト・ミー」

 瞬間、その場の誰もが我に返る、その様子は撮影が終わったばかりの役者のようだった。
 意味のなさと技術のなさを「シュール」で誤魔化す陳腐な素人映画のような。

 残念なことに彼らは演者ではなく現実の住人だった、それぞれが嫌う何かが集約された、あまりにありふれた風景だった。

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