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2014-05-03 12:00 | カテゴリ:ショートショート・フィクション

「僕たちの敗北」


 あてもなく歩き続ける、そんな旅人のふりをする。たったのひとつも荷物を持たず、真新しいスニーカーの旅人なんて何処にもいないだろうと分かっていながら、そんな夢想で街をただ歩く。
 そんなの単なる独りよがりで出口のないことだって分かってはいる。

 見慣れた街が黄昏れ始める。
 灯り始めた明かりが窓を淡い黄色に染め、遥か高く頭上には月が目覚めていた。
 通りは家路を急ぐスーツ姿が、リフレクターを貼り付けたジョガーが、犬に引っ張られる子供が、制服のカップルが、それぞれがそれぞれに今日を終わらせつつある。
 どこかからカレーが匂い、路地をゆけば笑う声も届く。

 今日もやはり何処へも行けなかった僕はいつもの小さな部屋へと帰る。
「おかえり」
 どこかへ行こうと、そして何処へもゆけないままの僕は気恥ずかしくなりながら、でも、その呼びかけに応える。
「ただいま」

 代わり映えがなく退屈に満ち、不満と不安だらけで時に逃避を計りたくなる。
 それでも、僕たちは帰るべき場所がある。

 旅人にはなれない。きっとこれからも。僕らが生きるのはこの現実でしかない。
 彼女がレコードをかける。ビバルディの四季。僕たちはこの一枚のレコードを何度聴くことができるだろう。
 耳たぶを微かになでるくらいに絞られた音量のバイオリン。
 テーブルにはボイルしたウインナーとトマトのサラダ、カボチャのスープとバゲット。

 眼を閉じ手を合わせる。
「じゃあ、食事の前に……」
「今日も。今日も昨日と変わらず、だけど悪くない一日でした」
「いただきます」
 声が重なる。小さな部屋に体温がこもってゆく。

 僕たちは今日も敗北した、それを素直に認める。なにを以って勝ちとするのか、いまだに分からないままだけど、それでも僕らはやはり今日も敗北したのだ。
 

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