-------- --:-- | カテゴリ:スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2014-07-17 12:00 | カテゴリ:【小説】国境線上の蟻
市街地 香港 ブレードランナー 画像

市街地 香港 ブレードランナー 画像

国境線上の蟻 #6


「……ジェン」
 誰かが君を呼んでいる。君はまだそれに気づいていない、俯いている、目深にかぶったハンチングで目元は影になっていた、片手はコートのポケットに入れ、壁に背を預けて所在なさげに立っている。
 君はいつもそんなふうに立ってきた。

 物語は少し時間を遡る。
 君が彼に出会ったときのことだ。
 君はその名を「ジェン」
と云う。偽名だ。だが本当の名前など既にないものとしている。

「君がジェンか?」
 顔はあげない、視線だけで君を呼ぶ声に反応する。
「私だ。君だな、ジェンという若者は」
 ああ、あんたか。
 声は落ちてゆく。通りはクラクションと嬌声に満ちている、そこで使われる言語は様々だ、どれもがノイズに聞こえた、君は雑踏に紛れこんでいる。気配を殺し、空気のように漂う。
 君はそれを術として各地を転々と生き延びてきた。

「ルートは任せる。三日後の午前四時半、アンゲイの港湾再開発地帯にある港へ運んで欲しい」
 店内は薄暗く、照明と言えるほどの照明はなかった。君と男が正対するボックス席にはテーブル端にキャンドルが灯されている。
「アンゲイ……? アキのことか」
 カウンターには長い髪をカチューシャで抑えた浅黒い中年が染めた金髪と編み込んだ髪の女と何かを話している。
 何を話しているかまでは分からない。
「……君はジャポーネか。チャイネかタイ・ペイかと思ったがな」
 男の手の甲には地球を象ったタトゥーがある。円に沿ってヘビが一周し、その中央の国の上でヘビは牙を剥いていた。

「名前はない。今回の依頼のコードだ」
 君はいま名前を持たない。棄ててしまった。だが、忘れてはいない。
「まあ、どちらでもいい。私は人種にはそう興味がない。案件に問題は?」
 男は流暢な公用言語を操った。この島の国が長いのだろう。
「とくにない。三日後、シシュウのアキ、再開発地域の港だな。だいたいの位置は分かる」
 君は手渡された地図を眺める。地名、湾、外海、それぞれに三種の言語が割り当てられている。
 本土から伸びるカイキョウ・ブリッジを渡れば男が目指す島があった。

「私はワン・イーゼン。パプリック・ドメインだが、君はその名前を知っているはずだ」
 ああ。君は口にはせずに相対する男の顔を見つめた。

 ワン・イーゼン。
 知っている。それが偽名であること、そして何者であるかも。

「出発は明日、この店の前だ。夕刻に迎えにくる。2019年型フォードのピックアップ、色はディープグリーンだ、俺はクルマで待ってる」
 君はそう言って席を立った。
 翻したコートの風がキャンドルから炎を奪う。瞬間、君は振り返る。
 持っている写真とは違う、だが、紛れもなく探していた男だった。

 十年。
 君が最初にその顔を刻みつけたのはまだ十代のころだった。
 十年か。君は思う。
 少年は大人になり、最速でたどり着いたはずだ。そのぶん、写真の男は年月ぶんの歳を重ねている。

……あの日ほどの威圧は、背から立ち昇るような殺意は薄れつつある。
 最初で最後だ。
 君はポケットのなかの拳を硬く握る。いつかのシベリアのように、上下の奥歯が震えて断続的に鳴っていた。

 

……続劇

TRICKSTER TOURS.

閃 ロックンロール ワールズエンド
天 草原 蟻
ゾンビ 祈り 砂時計


PR

Copyright (C) 2014 copyrights.billy tanaka All Rights Reserved.



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へにほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・自作ポエムへ
関連記事
スポンサーサイト

管理者のみに表示する

トラックバックURL
→http://stardustjohnny.blog.fc2.com/tb.php/2914-2d74c6f3
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。