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2012-08-19 19:33 | カテゴリ:短篇小説「祈り火と過ぎる夏」
JACKPOT DAYS!! -poetrical rock n'roll and beat gallery--110723_144813.jpg

祈り火と過ぎる夏<1>


 8月も半ばを過ぎれば乾いて冷たい風が吹き始める。秋なんて趣のある季節は足早に去り、すぐに冬が訪れる。
それが私の生まれた土地だ。
 坂の多い山に囲まれた村で、その頂上からは小さな集落が手の平にすっぽりおさまるくらいに見渡せる。
 雪に備えた、旧来的な日本家屋で、屋根はすべて南に向かい、平地のほとんどを埋めるくらいビニールハウスが並ぶ。
貯水池のある山から一望する風景にいつも私は溜息ばかりをついていた、そんなふうに思い出す。
 なぜ、ここには何もないんだろう。
流れる川のずっと先には、あれほどに広がる海までが見渡せるというのに、冬になれば薄暗い雲を見上げて、あたたかい季節の到来だけを待つ。

 いま、私は久しぶりにその場所にいる。
でも、あのころの風景はそこにはない。
私の知る故郷は、もうすでに失われ、損なわてしまったことに、そしてそのことに酷く動揺する自分が意外でもあった。
 半年前になる、三日間続いた豪雨のせいで、この村は再生不可能なほどのダメージを受けていた。私がそのニュースを見たのは会社のデスクに突っ伏して眠っていたときで、同僚にその被害を聞かされた。
 テレビの画面に懐かしい風景はなかった、それはすでに消失したしまっていた。山の頂上の貯水池があふれ、濁流は村を削り、押し流し、その圧倒的に無邪気な暴力によって、木々は薙ぎ倒され、集落を縫うように細く海にまで続けていた川が捕食したばかりの蛇のように膨らみ、風景を飲み込んでいた。

 私はそのとき、ただ呆然とそれを眺めていただけだった、手を出そうにも自分の意思では動くことのできない夢を見せられているようだった。
 奥のほうがざわめき立つ、床から10センチほど浮き上がったように覚束ない足元で、ゆらゆらと揺れているような感覚にとらわれていた。

 アナウンサーは興奮を殺しながら冷静さを保ち、淡々と被害の状況を伝えていた、見慣れたはずの景色は一変している、なぜか私は思った、連綿たる日常は変化を繰り返す、良くも悪くも変わらないもなんてどこにもなかったんだ、と。


 夏が過ぎてゆく日々、移ろう刻が好きだった。
その季節は祭の季節でもある。小さな村にとってただひとつのニュースになる祭だ。
 祈り火の祭。
海に繋がるその川に紙を折り込んだ小舟を浮かべ、そっと火を点ける。やがて舟は燃えて沈むが、その紙には祈りが書かれている。
そしてそこに書かれた祈りは誰に話すことも許されていない。
水の神だけがその願いや祈り、託された思いを受け取るだけだ。

 その季節がくる。
私は生まれた土地へ、その祭の取材にきたのだ。




photograph and story by Billy.
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