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2011-12-29 21:52 | カテゴリ:the sunshine undergr
JACKPOT DAYS!! -poetrical rock n'roll and beat gallery--110116_151943.jpg

ガゼルってのはディータが読んだ本のなかに出てきた人物の名前だったらしい、そいつが特別に自分と重なったわけじゃない、ただ、なんとなく俺に似合うような、そんな気がしただけなんだ。

活字ばかりが並んだそれは俺とディータが寝床代わりにしているタイヤが潰れて傾いたキャンピング・バンのダッシュボードに遺されてた。

俺はろくに言葉を読めない、そんな教育は受けずに育ったし、読み書きができなくてもここではそう問題はない。

第一、その本は後半が焼けてなかったし、読めたところで最期まではたどり着けやしないんだけど。

紙ってのはゴミになりやすいらしくて、裸の女がずらっと載った雑誌やら、高価そうな洋服ばかりの写真誌や、妙に目の大きな原色の髪をしたガキたちが血を流し合う絵本みたいなやつだとか、そんなものが次々に運び込まれてくる。

俺にとっては火をつける種に過ぎないけれど、ディータにとっては違うらしい。奴は独学で読み書きを覚え、いくつかの外来語も勉強してる。

“死ぬまでずっとここにいるわけにはいかないだろう?”
それがディータの口癖みたいで、とにかく、奴は暇さえ見つけては食い入るように本を読んでる。
奴が読み終わるまでは火種にできない紙がたくさん積まれてるんだ。

キャンピング・バンの後部席でさ、懐中時計を照らして白い息をはき、小さな活字を貪る姿は……正直、俺には理解できない。

ただ、気になることは話してた、それはこのサンシャイン・アンダーグラウンドから発生したとされる感染病のことだ。
発生源がこの島かどうかは知らない。
ただ、そんなふうに言われ、それがこの国を脅かすかもしれないってことをディータに聞いた。

ここは衛生状態が悪く、得体のしれない外国人だらけで、しかも性犯罪者のたまり場で、違法の廃棄物が持ち込まれる場所だかららしい。

実際、奇妙な死に方をした連中を何人も俺は見てきた。
赤黒い血を大量に吐き出して、その血の塊のなかにはどろどろに溶けた内臓らしいものも混じってた。

“ここに生き続けることはできない”ってディータは言う。
それは分からなくもないんだ、だけど、じゃあ、俺らはこの島を離れて、別の場所に生きることなんてできるのか。

なあ、ディータ。
俺は今夜もリヤウインドウに差し込む月明かりで活字を追う奴に声をかける。

なあ、ディータ。
俺たちはこのサンシャイン・アンダーグラウンドから抜け出すことなんてできるのか。
この汚れ荒んだ地に生まれた忌むべきガキなんだ、俺たちは。

なあ、ディータ。
お前はいまだに、あの神父は病死なんだと信じたまんまなんだろう。

あいつは、俺が殺したんだよ。
それを知ったら、ディータ、お前は俺を軽蔑するか。


……続劇
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