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2014-12-30 18:30 | カテゴリ:instagram × 文芸パンク

「鵺の残響」


風の向きは変わってきてる、ニオイも不思議に澄んできた、
空ははるか遠いのか、思うよりも近いのか、
どちらでもいい、この世界にある絶望を海だとしたら、
誰もが孤独に泳ぎ疲れた、

「俺は狂ってなんかない」、天に叫んだ厚化粧の老紳士、
欠伸まじりに眺める少年、背中に羽根が生えていた、
氷よりも冷えた鉄螺旋、休むに飽きて飛んでった、
たぶん、月に帰るんだろう、影を微か乗り移らせるアスファルト、

空は今日も水色で、そこに滲んだ血が混ざる、
棄てた者と棄てられた者、重ね合わせる呼吸と体温、
路上に熱は溜まり続ける、生き場失くした獣の残響、

風の向きは変わってきてる、ニオイも不思議に澄んできた、
空ははるか遠いのか、思うよりも近いのか、
どちらでもいい、この世界にある絶望を海だとしたら、
誰もが孤独に泳ぎ疲れた、

夜にもがいて、朝に不快で、
世界の終わりを待っている、終わる世界が彼らを包む、

背中に羽根のある少年、遠く地球を眺め回して、
眠い目こすり、見飽きたふりして飛んでった、
月の向こうに帰るんだろう、下弦のそいつに跨がりながら、
光る八重歯を磨いてるだろう、夜を迎える鉄の鈴を鳴らすだろう、
愚者は愚者とて今日も変わらず、まだ見ぬ海に焦がれ彷徨う、
愚者は愚者とて明日も同じで、まだ見ぬ明日に焦がれて吠える、









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2014-12-29 18:30 | カテゴリ:instagram × 文芸パンク

「スクラップ」


住んでるのは潰れたばかりのガスステーション、
パズルみたいに積まれているのはスクラップ、
モーテルがわり、好きなところで眠ればいいって、

荒野はすぐそこ、見えているのは誰もいない、境界さえない最期の地、
ありったけのガソリンで、火を放てば気持ちいいかな、
どうせ誰がいるでもない、

キャロルだって聞こえやしない、きっと終わりはすぐそこだって、
こぞって話をつくる小説家、シナリオライター、
噂話の手配師と、それはきっと願うヒトが多すぎるから、

ふたり住むのは潰れたばかりのガスステーション、
スクラップで寝起きして、生きたいところも別にない、
無為に時間を重ねてたいって、

荒野いつもそこにある、描いているのは肺さえ凍らす絶対零度、風と相対するのは誰だ、
ありったけの孤独をもって、地はヒトを手放なすだろう、
僕がここに必要もなく、無為に立ち尽くしているように、

パリからベニス、モンサンミシェル、サルバドール・ダリの墓、
カリブの海に沈んだ島を、炎上しているジェット機を、
落書きだらけの紙幣の文字は読めないくらい真っ黒で、
いつかのシチリア、アンダルシアの土埃、
思いつきを並べ立て、乾いた風が吹いている、






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2014-12-28 18:30 | カテゴリ:ショートショート・フィクション

「夜鳴鶯(ヨナキウグイス)」


 テーブルに肘をつき、軽く握った拳で頬をついている、射す光の加減で金にも薄い茶にも、あるいは白にさえ見える長い髪を垂らしている。
 伏せた目から伸びる長い睫毛が影をつくっている。影とその睫毛は一体になり、古い傷跡のように滑らかな頬に刺さる。

「街の様子は?」
 正面扉が開く、数名が出入りする、吹き込んだ風が彼女を一周して外へ抜ける。
「先月の暴動で数百の死者が……現在も国軍と交戦中とのことですが……詳細は不明です、救護所の負傷者は増え続けて……」
「そう。変わらずというところね」
 耳打ちする側近を手で払う、しかし、その声は透徹に澄み、落胆は感じさせない。
「そもそもが貧民街ですので……鎮圧というものは望めません。治安、衛生、すべてが限界ではないかと」
 右に従える側近が忌々しげに告げる。彼らは彼女と違い、自らの存在意義に疑問を抱えている。

「声は……声は聞こえませんか?」
 以前は教会だった、戦火に焼き払われたそれは骨組みだけを残し、救いを求める大衆が集う場所になった。

 そこにいる者々は到底、冬を超えられそうもない粗末な衣しか身にしていない。
 息が凍えている、連なる顔は一様に青く白く、痙攣するように歯を鳴らしている。
 口の端に泡を浮かべている者もいる、既に絶えた者の姿も見える。

「聞こえてるわ」
 彼女は白衣に身を包んでいる。焦げ跡、綻び、血や体液が染み、どこか世界地図のようにも見えるが、それでもそれは白だった。
「声は、私に届いています」
 膝をつき、彼女を見つめる人々から感嘆が洩れる。

 彼女は「声」を聞くことができる。本来、不可視である「神なる者」の声を聞きとれるという。
 それ故、彼女のもとには救いを探す者が集う。

「わ、私たちはどうすれば……?」
「救われる術を私たちに……」
 手立てを要求する声が飛び交う、正面の彼女へとぶつかるように発弾される。
 人々は平和を願い、ときに争いさえする、しかし、放った銃弾が着地すべき場所を知るわけではない。

「今夜零時」
 彼女は話し始める。
「この集会所にすべての薪と燃料を、あらゆる銃器を、火の点くすべてを集めなさい」
「そ、それはどういう……?」
「残念ながら手立てはそれ以外にありません。ここは既に限界だわ。この教会から街を焼き払うしか私たちは救われはしない」
「まさか……」
「『声』はそんなことを……」

 仕方ないのよ。彼女は声にはせず思う。
「人類を救う為です」
 伏せていた目が開かれる。そこに集まる人々を射抜き、同時に天を睨んでもいる。
 私は……あなたたちを含め、この街に生きる者は皆、有効な手段を持たない、治療法のない熱病に感染しているの。
 すべてを焼却してしまう以外にないの。
 赦してください人々よ。これも救いのかたちのひとつなのです。
「墓場鳥」の別名を持つ、私の最期の使命なのです。






【了】 







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2014-12-27 18:30 | カテゴリ:instagram × 文芸パンク

「置き去られたフィルム・メイカー」


探求に費やした、日々が過ぎたその後も、
彼は世界の一端を、録り続けては映し出す、
足がないから見る角度は変わらない、
それでも景色は変わってく、数百年でも数秒のよう、

眼前は、倒れたカメラマンが朽ちてゆく、
肉片になり溶けては液体、やがて乾いた、
さらさら風がかたちを壊す砂になる、
もしも彼に手があるなら、せめて倒れた者の眼を閉じて、
見えないようにしてあげたい、録り続ける風景は、
醜く悲しい現実だけが昨日明日と駆けてゆく、

風雨と砂と埃にまみれ、
映写機、すでに欠けた視界、
そろそろ眠ろう、テープは切れてカラカラ廻る、
いつかまた拾ってくれる、誰かに見たもの伝えよう、
僕が映す次のもの、それは心が躍るフィクションを、
創造的な娯楽なら、子供たちもそのときだけは笑ってくれる、

置き去られたフィルム・メーカー、やがて視界はゼロになる、
置き去りになる破片、足をすくわれ倒れたままの、
黄金を映し出す、そんな時は終わったらしい、
逆さまに見る空は、星降る夜にも似た深海、
映写機、すでに夢すら見ない、
映写機、もはや視界もない、
終えて眠りを待つだけの、最後に記録したのは光、








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2014-12-26 18:30 | カテゴリ:instagram × 文芸パンク

「羅針盤には青の草原」


架空の地図は落書きだらけ、あちらこちらに宝の印、
心臓だけを喰いちぎれた、もう咲けないブーゲンビリア、
ミドリと赤いを混じらせた、花びら宙にこぼれてた、
捨てられないまま忍ばせた、手紙はスペルを間違えていた、

彼は既に此処にはいない、
夏の喧騒過ぎたころ、月が見渡す夜の海に消えてしまった、
良くも悪くもなかったと、うそぶく舌は細くて長い、

出航間近の帆船は、羽根を一枚、
渡りガラスの風に受け、
美しく凪ぐ水平、
ひとりは口笛、月の砂漠を、
聴き飽きた昔話を瞼から遠ざけた、
再び港を離れるころに、咲き忘れた一輪は、
孤独を握る手にはない、優し過ぎた思いはもう、
ここから先には要らないらしい、
銃声が聞こえくる、どこから届く煙のニオイ、

航路はここから先にまた、広がり続けてゆくらしい、
ツバメは黄金くわえてる、そいつの速度が羅針盤、
自由が幻だとすれば、旅立つこともないだろう、
南から突き抜ける、蒼い風に頬を打たれて、
架空の地図には失われた国だらけ、
いま手にするのは航路を綴る白いキャンバス、
それくらい、それくらい、
鳥の羽根とそれくらい、








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2014-12-25 18:30 | カテゴリ:instagram × 文芸パンク

「一握の砂」


遠く岬を見据えれど、白濁した霧がかる、
視界は既に常態化した不透明やら不鮮明やら、
吹き荒ぶのは凍る水の棘の雨、

風は示唆し導くだろうか、
晴れることと降らせることは天に譲る以外にない、
風が示唆し導くのなら、
何故に返すか波飛沫、
呼吸を続ける私たち、景色は背後へ流れ追いやる、
荒む日のこと、尖る日のこと、

嗚咽に悲鳴、傍にて褪せず、
吐き出す他ない諦観よ、
緩衝地帯の路傍では、倒れた銀の骨組みが、
昨夜の雨に濡らされて、錆びゆく姿を晒してた、

いまや絶滅危惧種の私たち、
やがての御先に立つのは組成の違う亜人たち、
「声なく絶えたもの」として、ホルマリンに浮いている、
ガラスケースの私たちに似た者を、
僅かな感興さえもなく、其処には特たる情もなく、
標本として眺めるだろう、最早、還りようもない、

風が示唆し導く岬、波を待つに飽いた私は、
諦めかけの欠伸殺さず吐き出したる、取るに足らない他愛ない、
ガラスのなかに流れる砂の時計を反転させた、
天が其れを見るはずもなく、
一握の砂はただ、風に流れ虚空へと、
刻々たるが今日も流れる、昨日と指したる差も見せず、







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2014-12-24 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル end ~わたしの願いごと」


「例えばね」、彼女の声が聞こえた。いつから聞いていないんだろう。
 分からない。分からないけど、それは花の香みたいに胸の奥にまで届いてくる。
 
「あのとき、砂時計は止まらなくて。いつもの朝が訪れて、いつもと同じように君に逢えたとするでしょう」

 隣にいたときはそれが当たり前だと思ってた。毎日ふたりでいることや、特別なことなんてなくっても幸せかもしれないって思うときもあった。

「きっとそんな幸せだってあったはずだって思う。私たちはそうじゃなかったけれど、そんなふうに生きてきた人はたくさんいるわけだから」

 そうだね。でも不幸だとは思わない。そんなふうに思いたくないんだ。
「ねえ。僕たちは離れ離れになっちゃったけど……でも、でもさ」
 そのあとが続かなかった。逢えないけれど、なぜかすごく近くにいる。そんな気がする。

 僕はオルゴールのネジを巻く。そして明けないままの空を見上げた。
 ふわりふわりと踊りながら落ちてくる白い一輪。それは窓辺に咲いた一輪によく似ていた。

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「ねえフラウ。君はまだ歩く? まだ探せる?」
「いつか迎えにゆくから。待たなくていいから。いつかきっと……」
 いつかきっと、どこかの遠い朝で。

 僕は思い描く。
 あの懐かしい夜明け前の砂時計の街を。荷物を抱えて歩き始めた、未来を迎えにゆくリヒーナの姿を。
 彼女がまた、同じ景色を見ているように。

 砂時計は止まり、夜明け前で止まってしまった時間。太陽が差さなくなった世界は静まり、氷は溶けず、花は枯れて、鳥たちは東へと飛び、やがて人々は言葉を失くしてゆきました。
 昇らない太陽。それは神様の消えた世界と言われました。
 季節は真冬だけになり、生まれてくるよりも失われてゆくものが多い時代。
 やがて、祈ること、願うことは忘れられ、人々は安息の地を探して歩き続けるしかなくなってゆきました。
 真夜中よりも寒く、かすかな光でにじむ視界。待ってはいられない未来へと手を伸ばす人々。

 二度と交差することがなかったとしても、それでも時間は止まらず、巻き戻すことはできません。

「約束がね……まだ果たせていない約束があるんだ。僕の声は届いてる?」
「うん。聞こえるよ。だから歩いてるんだよ、君も私も」
 朝は遠くて、繋ぐはずだった手。触れようとして触れられないままの手。
 ふたりはお互いが見上げているはずの空に、光る星にいつかの朝を思い描いているのでした。

 少年はオルゴールのネジを巻き、鳴り始めた音楽に合わせて歌う少女を描いた。
 少女は止まった砂時計を振り返ることもなく、未来へと歩き始めたばかりだった。小さな手のひらが重なり合う未来を祈る。
 ふたりは同じ方向に向けて走り始めた。

 「君に逢える未来のために」

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<おわり>


Merry Christmas. To you, dear readers.
〝LOVE & PEACE〟

2014.12.24 Billy tanaka



【著者指定テーマ曲】
YUKIさん / わたしの願い事 (YouTube Official Channel)







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2014-12-23 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #9」


「君はいま、どこへ向かって歩いているの?」
 僕は少し考えてから答える。
「未来。うん、未来なんだと思う」
「未来って?」
「僕たちが笑顔でいられるはずの、いまより少しだけ先にある場所」
「そこにはたどりつける?」
「たどりつけるまで歩くって決めたから」
 東へ東へと僕は歩き続けている。まっすぐ前にあるのは夜明けのかすかな太陽の光。大切な人の笑う顔。
 いまの彼女を思い描くことができる、そんな気がした。

『いつか。
 リヒーナ、いつか、僕は戻るよ。いや、戻るんじゃない。過ぎた時間は戻ったりはしない。夜明けが遠くて遥か未来になったとしても、僕は必ず君の待つ街へたどりつく。
 オルゴールを鳴らすたび、いつだってその音色が僕を連れてってくれるんだ。いつかの、夜明けに』
 そこまで書くと、もう続きは言葉にならなかった。


 人は夜明けを待つことなんてできなかった。どこにあるのかさえ分からない太陽を探して、誰も彼もが街を離れた。

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 私は……私はいま、君から届いた手紙を読み返してから、それを大切にバッグのなかに入れた。もちろん、オルゴールだって入ってる。
 私もゆく。君と君が探してる未来を迎えにゆく。

 この街から遥か遠い東の土地。黄金の砂が流れる大河をたどれば、君が歩いたはずの足跡をたどれば、そこでまた逢える。

「聞こうと思えば、ちゃんと聞こえるんだよ」
「うん。僕にも聞こえてる」
「たくさん話したいことがあるよ。街のこと、君が旅立ってからのこと……私のことも」
「それはいつになるかな?」
「いつか、また、未来で」
 思い出のなかのフラウと話しているつもりだったのに、君の姿はこの街で過ごしたころの君とは違ってた。少し大人になって、声も変わりつつあった。
 私だってそう。
 待ってるだけじゃなかったんだよ。ちゃんと生きてた、毎日を生きてたんだ。
「じゃあ、いつか、未来で」
 手を振ると幼い彼は光のなかに溶けてゆく。

 私もまた旅に出る。
 未来を迎えに行った君を迎えに。

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【つづく】







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2014-12-22 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #8」


 どれくらい眠っていたのか分からなかった、目覚めた私は窓の外の景色に目を凝らしていた。
 窓際にはオルゴールが開いたまま止まっていて、フラウと交換した日のことを思い出す。

 薄く暗く、かすかに白い光が見える。変わらない夜明け前の風景。眠りから覚めない世界は静かで、誰かと話していないとひどく不安になる。

 時間のことを思う。
 フラウが旅に出てからどれくらい経ったんだろう。この街だけじゃなく、世界中が夜明け前なのだとしたら、ゆける場所は限られてるのかもしれない。

 水族館の小さなサカナたちみたいだ、そう思った。自由にどこへだって泳ぎ回ることができるものだと思ってる、けれどほんとうは同じところをぐるぐると廻り続けているだけ。

「海のなかにいるみたいだ」
「……海?」
「この空の色って、深いところから水面に顔を出す少し前くらいみたいだって思ったんだ」
 そう言われたらそうなのかな。朝が途絶えたばかりのころ……そう、まだフラウがこの街にいたころ、そんなふうに言っていた。
「いまの私たちみたいだよ」
 オルゴールにそう話してみる。ネジを巻いて抱き寄せて耳のそばで歌ってもらう。

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「元気?」
「私は元気だよ。君は?」
「街のみんなは?」
「街のみんなは……あきらめて離れる人も多いよ。神様ってね、太陽のことだったのかもしれない」
「太陽が神様?」
「冬の朝の……ほら、柔らかいカーテンみたいな光のことを神様が微笑んでるって聞いたじゃない。神様が微笑んでくれなくなると幸せが逃げてくんだと思う」
「ねえリヒーナ。砂時計のない街にも朝はないんだ。太陽が昇る東に向かって歩いてるのは僕だけじゃなかった……」

 風が吹いた、オルゴールは止まっていた。夢のなかで話していたのか、そうじゃないのか分からなかった。
 だけど。
 だけど、息づかいや静かな話し方、懐かしい匂いは気のせいだとは思えなかった。

「奇跡は起きるんだ、いままで毎日起きてきたように」

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【つづく (あと2回やで) 】







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2014-12-21 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #7」


 東へ、東へと。
 僕は歩き続けていた。風が背中を押してくれたような気がしたときは、ふと来た道を振り返る。
 砂時計の街、僕が生まれ育った街。朝を待つ彼女がいる街。
 川に流れた金の砂を追って歩き続けてきたけれど、いまもまだ朝にはたどり着けないでいた。

……聞こえる?
「え?」
 僕は耳を澄ませる、風に散らされる砂と葉と。背中に届いた懐かしい声。
 空耳かな、そう思う。あたりには誰もいない。立ち止まる、そして目を閉じた。ふと浮かぶ笑顔とリヒーナが僕を呼びかける声。

「聞こえるよ……うん、聞こえてる」
 受けとめる相手がいない言葉はぽつんぽつんと足下に落ちて、その上を砂が通り過ぎてゆく。


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 オルゴール。
 ずいぶんくたびれたバッグからオルゴールを引っ張り出した、たくさんの声をひとつひとつ浮かべてゆきながら、オルゴールのネジを巻く。
 いつかふたりで聴いた懐かしい歌がつたなく、淋しく聴こえた。

「こんなに楽しい歌なのに……」
 それに合わせてハミングをしていた彼女の横顔は夕陽に頬を照らされていて、僕はじっと見つめていることができなかった。
 なのに、ふと見た一瞬はいつかの記憶じゃなく、いまも彼女がすぐそばにいるような気持ちになる。
「ずっとそばにいてくれたんだ……」

 出しそびれた手紙の束はしわくちゃになっていた。僕は僕が思っていたより、きっと彼女が思っていたより遠くに歩いてきたんだ、そして、いつ帰れるのかも分からない。

 故郷を遠く離れても、世界は夜明け前で止まってしまったままだった。

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「おはようって言い合えるって幸せだと思わない?」
……うん。当たり前のことだとばかり思ってた。
「こんなふうになんでもない時間を笑ってられるって素敵じゃない?」
 いまはそれがよく分かるんだ。

「当たり前のことなんて、昨日と同じ朝がくるなんて、そんなこと決まってなんてないんだよね」
「毎日、奇跡の連続だもの。誰かに会ったり、ごはんを食べたり……。君とオルゴールに合わせて歌ったり、ね」
「いつかまた戻れるかな?」
「私たちの街に? それとも朝がこなくなる前の世界に?」

 いつの間にかオルゴールは止まっていた、いつも隣にいてくれていた、僕はリヒーナと話していたのか、それとも幻と話していたのか、よく分からなくなっていた。



【つづく】







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2014-12-20 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #6」


「……手紙」
「え?」
「手紙、書いてくれる?」
「うん」
「気をつけて……絶対に帰ってきて」
「うん。約束する」
 私たちが見つめる先には動かなくなった砂時計がぼんやりと浮かんで見えた。止まってしまったそれは街に大きな影を落とし、私たちの影は溶け込んで見ることができない。
 夜明け前の薄暗い世界は深い湖の底にいるようで、覚束ない足下は、次の一歩を爪先が探している。

 フラウが旅に出た日のこと。
 どこにゆくのか、どれくらいの時がいるのか。私はそれを聞かなかったし、彼も話そうとしなかった。どうして聞かなかったのか、よく覚えていない。
 ほんのわずかな光に浮かんだ横顔だけはずっと覚えてる。

 きっと遠くを見ていたんだろう。
 あまりにも見慣れてしまって、すぐそばにいる彼がずいぶん大きくなっていることにさえ気づかなかった。
 朝が来なくて時間が止まったんだと思っていた、だけど、生きている私たちの時は止まることがない。毎日変化してゆく。
 ほんのわずかな一瞬でさえ、私たちは変化してゆく。


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 目覚めを忘れても、それでも世界は続いていた。
 人より身軽で自由な生き物たちから姿を見なくなり始めた、鳥は遥か遠くへ群れて薄闇の空を走り、花は一輪ずつ散って、私たちの住む街は冷たい風が吹き抜けて、笑顔を失くした人々はやがて外に出なくなった。
 街は静かで……あまりに静かで、話し声さえ聞かなくなった。

「聞こえる?」
 私は空に問いかけた。窓の外の景色は変わらない。日が経つにつれて朝の温もりをどこか忘れてゆきそうな自分を知っている。
 笑顔で逢うことのできた、当たり前の日々を遠くに思う。
「変わりはない?」
 星はなく月は眠り、目覚めないままの太陽と、街を離れてゆく人々の姿が見える。

「おはよう、いま、君がいる場所には朝がある?」

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【つづく】







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2014-12-19 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #5」


 街は今日も夜明け前で、明けることも暮れることもない。
 動かなくなった砂時計は水平より少し傾いて止まり、そのガラスの空洞から黄金の砂が溢れ出していた。
 川を跨いで作られた砂時計からこぼれた砂は、流れる水を満たして金色に染め、今日も夜明け前の世界に知らないふりで海へと流れてゆく。
 僕はかすかに明るみの残る街をゆく。

『神様のため息』とされた砂時計と時間の終わり。
 人々は永遠の夜明け前、来ない朝に慣れようとしているみたいだった。
 修復に立ち上がった人たちも、街全体に影をつくるほどに大きな砂時計を直すことはできなかった、溢れ出てしまった黄金の砂もこの国にはなく、僕らの街は薄暗くて寒々しい景色に変わってゆく。

「フラウ。夜明け前がいちばん暗いって言うじゃない?」
 本当なのかどうかは知らない、それより、僕は彼女にかける言葉が欲しかっただけ。
「朝がこないから起きたり眠ったりできないの」
 リヒーナはずっと眠っていない。眠そうに目をこする。そんな人がずいぶん増えた。寝ても覚めても同じ色の空が広がるんだ、僕だってあまり眠れなくなった。

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「ねえ。少し横になったほうがいいよ」
「眠れないよ」
「眠らなくても、寝転んで目を閉じて……。リヒーナ、顔色が良くない」
「眠ろうとはしたの。目覚めたら朝になってて、君におはようって言いにゆけるんじゃないかって……」

 彼女の住んでる部屋からは伸びた街路樹の枝を見ることができた。小さなころは届かなかったその葉に手が届いたのは去年のいまごろ。彼女はそれより半年前だった。
 あの樹は枯れて倒れ、ばらばらにされてどこかへ運ばれてしまった。
 景色がみるみる変わってゆく。
 あがらない温度と吹き続ける風。冬の世界。凍りついて溶けない路地の水たまり。影まで凍りそうな夜明け前の僕たちの街。

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「絶対に戻ってくるから」
 吐いた息が透き通るのをじっと見ていた。
「……え?」
 部屋のなかは青白くて、金色の光に包まれていたころが遠い昔のように思えた。
「きっと何か方法があるはずなんだ、僕はそれを探しにゆく。このままじゃ……」
 このままじゃ夜は明けない。待っていても朝は来ない。
「行くってどこへ……?」
 窓辺に飾られていた花が弱々しく痩せて花びらは落ちていた。彼女が大切に育ててきた花だ。
「わからない。砂時計を直す方法なのか、時間を元に戻す方法なのか。それ以外かもしれない。僕はそれを探しにゆく」
「探しに……時を戻す方法を……」
「うん」僕は言う。
「花を……窓辺に新しい花を咲かせたいんだ」

 君と笑顔でいられるように。


【つづく】







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2014-12-18 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #4」


 朝が来ないということ。

 それがなにを意味するかなんて、そのときの私たちにはまだ分からなかった。いつまでも続いてくれるとばかり思っていた、当たり前だと思っていたことがぷつんと途切れてなくなってゆくってこと。

 古い映画……そう、古い映画のフィルムが切れて、その先の続きが永遠にお預けにされてしまうのに少し似てるのかもしれない。

 夜だけになった私たちの街は、やがて、悲しく淋しく様変わりしてゆく。
 開けた窓に飛び込んでくる光や、通りを歩いたときのパン屋の匂い、乾いたばかりの洗濯物や、朝焼けをゆく鳥たち、そんなすべてが姿を消してゆく。
 花は枯れ、樹から葉が散り、イヌやネコは死んだように眠ったままで、私たち人も夜に溶け込むように暗く沈んでゆく。
 変わらないものなんてなにもなかった。

「動いてる?」
 いくら目を凝らしても、砂時計はあまりに遠くて、暗がりのなかでは輪郭だって黒く消えてしまってた。
「分からない。でも、きっと動いてないと思う」
 君が言う。ほんとは私にも分かってる。


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 私は彼に身を寄せてみる。なんだか冷たくなってきているような気がした。きっと私も同じなんだと思う。
 夜に慣れた体温と体温の間を、それより冷たい風が通り抜けていく。
 慣れられない私たちと慣れようとする人たちがいて、街を離れる人もいた、砂時計を直そうとする人たちもいたけれど、それは人にはムリなことみたいだった。
 そう、この街の砂時計は神様がつくったんだと聞いて育った。人は朝や昼や夜をつくったりはできない。

 動かなくなった砂時計は『神様のため息』と言われるようになって、それはまるで私たち人に愛想をつかせた神様が世界を終わらせようとしているみたいだった。

 ひどい。私は思う。
 この世界にはたくさんの人がいて、憎しみ合ったり妬み合ったり、争ったりばかりしているように見えるかもしれない。
 だけど。だけど、毎日を懸命に生きている人だって、動物や植物だって生きているのに……どうして朝を、太陽の光を奪ってしまうんだろう……。

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【つづく】







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2014-12-17 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #3」


 時間が止まって、朝がこなくなるなんて考えたこともなかった。それはきっと僕だけじゃない。当たり前だと思っていただけなんだ。あのとき、この世界には当たり前なんてないのかもって僕は思った。

「砂時計が止まってる……?」
 それに気づいたのはリヒーナだった。彼女は幼なじみで、ずっと僕と一緒に育った。
「まさか……」
 僕も砂時計を見つめる。時間を司るそれは目に見えて分かるほど早く動いたりはしない。
 でも、あの日、朝になっても街は暗いままだった。砂時計は重そうに傾いて、そのなかの砂はなぜか流れていないように見えた。
 「夜明け……夜明け前で止まってる……」


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 僕とリヒーナがそれに気づくと、朝を待ちわびた街の人々も集まってきていた。不安げなざわざわと、怖がる小さな子どもたちの泣き声。
 冷たい風が僕らの間をすり抜けて、枯葉が坂道を駆けてゆく。眠ったままのニワトリや、うつむいたままに見える花。

「砂時計が止まると朝も来ないんだ……」
 僕らはそれを初めて知った、砂時計はこの街に時間を知らせるために動いてるわけじゃなかった。
「砂時計の回転が私たちに朝を、昼を、夜を連れてきてたんだ……」
「じゃあ、このままだと……」
 もうここに朝は来ない。そう言おうとしたのに、のどがからからで言葉にはならなかった。

「どうしよう……」
 僕はいつだって元気で、いつだって明るい声で、歌ったり笑ったりしてるリヒーナばかりを見てきたんだ。
 いまになれば、彼女はずっとそんなふうに振る舞っていたんだと思う。
「どうしよう……」
 僕もそう絞り出すしかできなかった。隣の彼女の細い肩が震えてた。

 いつも見上げていたような気がしてたのに、そのとき、僕は少しだけリヒーナより背が高くなっていることを知った。変わらないことなんてない。砂時計が廻ったぶんだけ時間は過ぎて、泣いてるばかりだった僕をからかって笑ってた彼女は、いまは僕よりも弱々しく見えた。


【つづく】







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2014-12-16 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #2」


 私たちが生まれて育った小さな国の小さな街。
細くて長い、三角形の屋根のビルが並んでいて、坂道はいつも風が強い。雪の降る季節が長くて、中央通りは冬の花が眩しいくらいに咲いてる。
 街外れには大きな大きな砂時計がある。街のどこからでも見られるくらい大きなそれは、「神様の時計」だって言われている。
 一日に一回転する大きな砂時計。私たちはその砂時計の角度や砂の量で時間を知る。
 それぞれの屋根に太陽と月のかたちの飾りがついていて、太陽が真上にくれば午後0時、月が真上にくれば午前0時。

 垂直に立った砂時計は、金色の砂が湖みたいにしんと静かに、真っ平らになっている。
 私たちは眠りにつく。翌朝、目覚めると砂時計は傾き始めている、私はそれを見ると、今日も生きているって思う。

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 太陽が昇り始める時間。窓を開け放して、新しい風を浴びる。冷たいそれが頬から首に伝わって、部屋のなかが生まれ変わる。

 私もまた生まれ変わる。
 君に逢って「おはよう」って言おうと思う。

 傾いた砂時計が朝陽を浴びて、こぼれてゆく砂がきらきら光ってる。
 ずっとずっと。ずっとそんなふうに過ぎてゆくんだと思ってた。
 君も私も、ゆっくりと時間を伝える砂時計を見て、少しずつ大きくなって、なんでもないことで笑ったり、つまらないことでケンカしたり。退屈だって言う君には「信じないかもしれないけど、退屈って幸せなことなんだよ」って大人ぶって言ってみたり、そんなふうに過ぎてゆくって思ってたんだ。


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 クリスマスにプレゼントしたオルゴール。君がくれたのは月の上で微笑む天使が彫られてた。私が贈ったのは太陽のなかを天使が歩いてる。
 ねじを巻くと古い歌が流れる。私をそれに合わせて歌う、君は口笛を吹く。
 気づけば、あたりはもう夕方になっていて、一日を終えた人たちが通りを急いでる。
「早く帰ろう」って、君の手を握ろうとして、いつだってできないままだった。


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【つづく】







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2014-12-15 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル

「砂時計のクロニクル #1」


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 おはよう、朝だよ。

 あの日のこと、僕はずっと憶えてる。君は僕をのぞき込むようにそばに立ってた、驚いた僕はベッドから転げ落ちてしまって、それを見た君はいつまでも笑ってたんだ。

「なんでここにいるの?」
「なんでって……朝だから起こしに来たんだよ」
「……まだ早いよ」
「見てよ、ほら。太陽は起きてる」
 そう言ってカーテンを開ける、するとまだ白い朝の光が部屋のなかに満ち溢れた。
 生まれたての光はまるで金色のシャワーみたいで、見慣れたはずの何もかもが輝いてるみたいだった。

「ねえ? 朝っていいよね」
「そうかな」
 まだ眠かったんだ。それに寝起きの僕はまだぼんやりしてて、彼女が言っていることが半分くらいしか頭に入ってこなかった。
 きっと髪はくしゃくしゃで、パジャマだってしわくちゃで、おまけに僕はまだぬいぐるみを抱っこして眠ってた。それがばれて恥ずかしかった。
 同じ年なのに彼女はずっと大人みたいだったし、いつだって僕は子供みたいに扱われて、驚かされて笑われて、悔しくって、でも、そんなふうに過ごす時間はほんとうに大切だった。
……それを話したことはなかったけれど。

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「おはようとかおやすみとか……他にもたくさんあるけど、そんなふうに呼びかけるって幸せだって思わない?」
「そうなのかな……?」
「そうだよ、絶対そうだよ」 
「うーん。よく分からないや」
「また明日ね、とか。ひとりで言うと淋しい、でも伝える誰かがいると約束になるもの」
「……約束?」
「そう、約束。明日だってまた逢える。明日がまた来る。私と君と、それから……」
 君は窓を開けて、吹き込んでくる風を浴びてた。短くしたばかりの髪が生まれたての草原みたいにさらさら流れてた。
「ここに生きてる、たくさんの人たちや木や花、動物たちや……そんな全部がね、繋がれて続いてくって思える。そんな約束」

 あのとき、彼女がなにを言おうとしていたのか、そのときの僕にはよく分からなかった。
 明日があるなんて、当たり前のことみたいで、ほんとは当たり前なんかじゃなかったんだ。



【つづく】







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2014-12-14 18:30 | カテゴリ:文芸パンク・憧


「月とあの陽が酷薄だろうと」


星がその夜の座に着こうと揺らぐ、
月が森の大樹に刺さるころ、夕刻前の宵闇は、
蒼は空から離れてゆこうと目を閉じる、
遠く天を眺めるリスは、明日には獣の胃に眠るだろう、
美談を語れど此の世が酷薄たるは変わらず、

景色は今日も、背後背後へ流るる霞む、
右手に月を、左に沈んだ陽の余熱、
車輪外れた馬車の荷台に昇るはずの弓張月待つ人と人、
森の行方を案じる蜥蜴は砂漠で渇いてしまっていると、
お腹の大きな娘がその子の父と手を繋ぐ、
ほんの少し前までは、ふたりは同じ管弦楽団だった、

今日も明日も連綿たる命が続く、
白み続ける天上は、冷笑さえも薄ら笑いにて孤を映す、
孤独なる森、孤独なる海、
孤独なる星、孤独なる酒、
孤独な果実、孤独な煙、
孤独な灰、孤独な魂、
今日も明日も私が其処に続く限りはやはり、
唯々、不器用だとしても、ありがとうを言葉にするほかないだろう、






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2014-12-13 18:30 | カテゴリ:文芸パンク


「冬の魔術師」


映りこんだその顔は、不愉快そうに睨んでる、
ひどく痩せて目だけがギョロつく、どこかで見た記憶の男、

感情なくして醒めたふりする、虚ろいながら緩めたシルクのネクタイ、
中指にはスカルのタトゥー、隠すためのジルコニアンリング、

イカサマの手品師は、光を放つすべてを嫌悪、
熱の源、太陽を消してしまう奇術を想う、

東の方角、神が起きたら そいつを引き抜いて、
もっと濃い夜だけを用意させてやるって決めた、

スパナを手にした手品師は、自分を睨む男を砕いた、
塵に散らばる破片のひとつずつに分散した小さな顔に蔑まれ、
悲鳴をあげてそこに倒れた、

かけらを拾い集めた手品師は、二度と自分が映りこんだりしないよう、
知る限りの様々で鏡を塗り潰し、鉄の枠に封じ込める、

神の姿は変えられなかった、けれど男のイカサマは、
星にある色すべてを映す、ステンドグラスに変えていた、

もう自分を見なくていいとなでおろした胸、最後の無色を突き立てて、
鮮烈なる赤にした、よろめきながら欠けたピースをはめ込んで、

男は神が目指める前に眠った、
男は神が目指めるより早く消えてった、






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2014-12-12 18:30 | カテゴリ:instagram × 文芸パンク


「世界地図は蒼と白」


怠惰を貪るスモーカー、煙のなかで息をする、
まるで監獄、ベルベットの地下2階、
地上にタバコはなくなった、
煙を吐けば罪人になる、いびつに尖る神経質、
外には番犬、ネイビーグレー、制服が睨んでる、

白く塗り潰した世界地図をキャンバスに、
空想の新しい地図を描く、海を創って、陸を描いて、
カミサマ気取りで赤いマルボロくわえてる、

国境なんてなくなって、言葉はひとつ、アスファルトは使わない、
チェリーの種を吐き出して、けらけら笑うテンガロンのカウガール、

白く塗り潰した世界地図をキャンバスに、
妄想ふざけた海図を描く、
船は騒いで、島に流れて、
海賊気取りで琥珀葉巻をくわえてる、

焼き払う世界地図、煙る世界、
ねえ、新しい海を探そうか、
焼き払え世界地図、煙れよ世界、
ねえ、新しい星を見つけてよ、
ピリ・レイスみたいになれよ、間違いだらけの世界は愉快、
答えなんかありゃしねえんだ、
真冬に咲くクローバーの花は何色だか知りたいような、そんな気分、
そんなのどうでもいいって笑えってやれよ、






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2014-12-11 18:30 | カテゴリ:文芸パンク・旅


「解放区」


鉄の網で阻まれた、誰も行かないサボテン荒野、
薄い闇雲むせび泣いてて、金の月に手を伸ばす、

彼女が触れて、僕は支えた、
彼女が白い息をして、僕がそれを吸い込んだ、

甘い匂いに満たされて、ふたりは解放されている、
窓から降り込むまばゆさで、
彼女は曲線、金の輪郭描いてた、

解放されて、歯をぶつけて噛みつき合う、
解放されて、喉を鳴らして二人は溶け合い、分かち合う、
解放された、悦楽区画でひたすら貪り食う自由、
禁じられた遊びを破る、背徳にの似た朝のにおい、

この刻だけは間違いなく生きているから、
解放されて、分かつすべてを解き放って、
この刻だけは悲しみさえも許し合うから、
解放されて、抑えもせずに果実を欲しがり合う、

白く浮かんだ、月は静かに微笑んで、
野生に返って、僕らは互いを求め合う、

溶け合って、ひとつになって、
背中をなぞって、ひとつになる、
背徳の夜明け歌、眠り薬はいらないくらい、
舌に痺れが残るころ、眠る呼吸は夜明け歌、







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2014-12-10 18:30 | カテゴリ:文芸パンク・焦熱


「逃走遊戯」


誰もやらない狂ったやり方、そいつが呼んでいるらしい、
銀行強盗、ただのひとりも傷つけず、君と僕が欲しいだけを奪い去る、
高笑いして逃げてやれ、

暗闇から暗闇へ、突き抜けてゆくあの感じ、
背面飛行の瞬間に見た、逆さの空の閃光が、
見慣れもしない輪郭を、薄い瞼に焼きつける、
いまだ誰も成功しない、狂ったまんまで解放された野犬くらい、
黄昏れ刻の黄金かすめて、喉を鳴らした安いピストル、

オオカミが牙を剥く、衝動はいつも命を震わせる、
何が足りない?
そこらあたりは何故かいつも答えがない、
毒を飲み込む夜のニオイ、ちぎれた羽根が雪に散る、

背面から見た赤みの空は、飛行機雲が引き裂いた、
キズ痕だらけ、遠吠えと、焦燥を隠す気もなく、
蹴り上ぐ虚無と不協和音、







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2014-12-09 18:30 | カテゴリ:文芸パンク


「フリックスター」


月の裏側、星を見ていた、
絶える間近のイヌの死骸を、ついばむ鳥の嘴は、
艶やかにも赤だった、黒に見紛うほどに赤くて、
垂れた雫が十字描いた、だけどそいつは不味いらしくて、
這い回るアリたちに、まるごと全部くれてやるって、

白から始まるすべての色を、
五十音順、並べた花のグラデーション、
尽きるころには星を一周、それからまた始まる白と、
ひとひらずつ踏みつける、律儀で優しさなんて忘れた、
今は農夫の宇宙飛行士、名前はミスター・フリックスター、
「誰も彼も見返りばかり欲しがっていた、
一言くらい、マシなことを言ってみろ」って、
左側の上下のふたつ、犬歯を見せて作り笑いを浮かべてた、
ライフル構えて引き鉄には爪のない指、

ドブネズミが朝からワインをラッパ飲み、
あちらこちら欠けていた、それから灰に薄汚れ、
だけどそいつはヒトだった、
睨んでいるフリックスター、ヒトもネズミも大差はないと、
月まで来てお喋りな、
群れなすヒト科をまとめて殺す、
シナリオ、アタマに描いてた、






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2014-12-08 18:30 | カテゴリ:instagram

【インスタグラム】画像集 2014冬












 以上、すべて……
billy_tanaka instagram

Instagram

に投稿したものです。

 旅行先、地元の小学校や岬などランダムに並べてみました。
 最後の写真は昨日訪れた「赤穂岬」。海を臨む神社の鳥居や「きらきら坂」と名付けられた坂道、そこから続くビーチまでがとても美しく、いままで知らなかったのがもったいなく思うほどでした。
 近いうちにまた参拝しようと思います。
 
 では、また。






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2014-12-07 18:30 | カテゴリ:ショートショート・フィクション
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「赤紙」


 ラジオに耳を傾けると今日も昨日と同じニュースが流れていた、雑音が混じってうまく聞き取れなかったけれど、きっと昨日や一昨日とそれほど変わらないんだろうと思う。

 枕元の銀紙には残しておいたチーズとクラッカーが半分ずつ。
 顔を近づけるとお腹が鳴る。忘れようとシーツに包まる。
 ラジオのチャンネルを変え、少しだけ音量をあげてノイズの向こうの声を聞き取ろうとしてみたけれど、屋根を叩き始めた雨に消されてしまった。
 明日は今日より寒くなると聞いた。
 早く眠ってしまおうと僕は思った。

 目を閉じようとすると窓の向こうでなにかが光った、星なんだと思うことにした。
 雨の夜だからって流れ星が見えないわけじゃない。そして僕は眠る。

 朝がくる。
 僕は着替える。オイル染みの目立つコートは大きくて肩が落ちてしまう。これをくれた人はこの街にはいない。
 ところどころ焦げのあるマフラーをぐるぐる巻く。これも貰い物。これをくれた人は、ついこの間、真新しいヘルメットを被り、敬礼をしてから街を離れた。
大人になると誰もがこの街を出てゆく。
   
 そう決まっているのだと言う。
 いつかは僕もその時がくるんだろう。

 今日はこれだけ、おじいさんはそう言って麻紐に巻かれた赤い紙の束を指差す。
 そう、これは一方通行の手紙。送るだけで返事の来ない手紙。
「平和の招待状だよ」とおじいさんは言っていた。

 僕はそれを鞄に積め、配達先を記した票に目を通した。コートをくれた人も、マフラーをくれた人も、この赤い紙が届いてすぐにこの街を離れた。平和な土地をつくるための「お務め」を果たすために。

 配達が終われば、今日もまたラジオを聞こう。僕はそう思う。
 戦争に行った誰かが帰るとラジオのニュースになる。立派な兵隊になって、立派にお勤めをして、骨になって帰ってきた人たちは英雄になる。

 いつか大人になったら。
 僕もこの平和の招待状を貰って、街を離れるんだ。



了 







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2014-12-05 18:30 | カテゴリ:instagram × 文芸パンク


「砂の器を踏みにじる」


恥をかき、傷つくことが生きること、
もしそうだとするのなら、それもきっと悪くない、
だって僕は君に出逢えた、たったそれだけかもしれない、
でもその「たった」はずっと、ずっとずっと生きてゆくんだ、この胸に、

光はいつも微かに滲む、手を伸ばせば砂のように流れてしまう、
それを何度も繰り返す、流れ星の尾を追って、走り抜けるはずだった、
掬いあげたきれいな水を、砂の器に移してたんだ、
掲げたところで誰が振る旗でもない、

鳥が遠く旅立つように、季節が僕らを運んでしまう、
感傷なんて不愉快なのに、別れを間近に迫りくる孤独を思う、
ただの孤立か、実はそれが自由そのものなのか、

見ろよ、注がれては形を失くす、
あの虚像の砂の器を、踏みにじってやればいい、
せめて地に還してやろう、所詮は無でも器の形を成していた、
誰かが水を注がぬように、跡形もなく潰すんだ、
そいつが土になればまた、新たな芽さえ空を見る、
いま、この別れに於いて、
いま、この新たな旅路の起点に立って、







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2014-12-04 18:30 | カテゴリ:instagram × 文芸パンク


“morning glory?”


幻影を眺めてた、何故か消えずに瞼を反射る、
少女は細い指にエメラルドの水のリングを、
俯す睫が頬に影、切り立つ針葉、その葉のような、

生まれたばかりの雲は煙って薄灰色の雪をこぼした、
煙突ならぶ街は赤茶のレンガ、夜にはハイエナ真似た男たちが徘徊してる、

倒された街灯の、そのひとつは火花を散らせた、
何か言いたいことでもあるんだろう、片袖のないフランネルシャツ、
寒々しげにちぎれたマフラーなびいてる、

幻影を眺めてた、目覚めた朝陽の発光に見た、
どうも不要が増えたらしいね、燃料はもう底をつきかけ、
“ウォッカでどうにか走らないか”
助手席にはエメラルド、首を振るだけ、かじかむ手は白く凍った、

朝がくる、その前に幻なんて追い払う、
夜がふける、くわえるタバコ、呼吸もろくにできやしない、

明日になれば橋を渡って、新たな旅を続けよう、
幻影なんて探さない、朝に焼けるあの橋は、

いつも見てきたポストカードのなかの風景、
波立つ海に受かんでる、宝の待つ島に架かっていると言い聞かせる、
少し眠ろう、朝焼けはそう遠くはない、






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2014-12-02 18:30 | カテゴリ:文芸パンク・憧


「夜を何度も塗り替えて」


孤独の夜を乗り越えた、かすかに灯る光に照らされ、
忘れたいものばかり、ランプみたいに明滅してた、

なにもかもを失くした気分だ、じゃあ、何を手にしたかと問われても、
何もないと答える以外にはない、ただ、目の前にある光だけが道標、
今日をまた生きるだけ、神はいらない、祈りもまたそう、

ただ感じる光だけはいまだある、
ただ感じる光だけが胸にある、
どうにか闇をやり過ごす、レモンドロップをグラスにふたつ、
射し込むネオンがステンドグラスをバスタブに、

君に会いに行かなくちゃ、君に会いに行かなくちゃ、
相変わらずの青臭さ、それからやはり弱さをぶらつかせ、
強がるばかりに生きてる気分、
在り方なんてどうでもいい、祈りはいらない、這うよう進む以外にない、







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2014-12-01 18:30 | カテゴリ:ショートショート・フィクション

「蛇の子供」


 灰色の雪が降り始めると少年は毛玉の目立つ帽子を深く被り直した。
長い睫毛に砂粒のような白が乗る。溶けることも落ちることもなく。
 彼はそれをつまんで捨てた、そして踵で捻じりつけた。
 
 東西へと伸びる街路に灯りが燈り始める、誰かに火を放たれたロールスロイス・ファントムがクラクションで泣き叫んでいた、だが、鎮火される前にそれは爆発、炎上してしまった。
 慌てて逃げ出す者と遠巻きにそれを眺めているものと。しかし両者共に驚きはするものの嘆くことはなく、さながらキャンプファイヤーのように火柱を囲み歓声をあげている。

 少年の視線はその様子に合わされていたが表情は変わらなかった。

 細く小さなその影は夜に飲み込まれつつある、足下の石畳の溝には濃い黄色の液体が微かに泡立ちながら流れてゆく、それは老いたラクダの小便だった、歩くことをあきらめたそのラクダは首に下げていた金の輪を外されて眼を閉じ眠ろうとしている。

 ストリップ小屋と売春宿、サーカスと大道芸人、闇医者と麻薬商人。
 夜に生き場を見つけた蝙蝠か、或いは爬虫類に似た人間があたりを闊歩する、何処かから銃声が聞こえ、それに悲鳴が続いた、ありふれたある夜に過ぎなかった、ありふれた名無しが誰かを殺し、ありふれた名無しが殺されたのだ。

 少年はブランコに座りこんでいる、わずかに揺らしているが鎖は氷柱を下げて軋んでいる、間もなく切れてしまうだろう。
 少なくとも次の戦争が始まる前に。

 足下にランプを置く。
 粗末なうえに薄汚れた靴が照らされている、その靴はわずかな隙間も埋め尽くす、周囲に集った人々に気づいた少年は話し始める。いや、話しているのは彼ではなく、彼がその手に抱いている操り人形だった。

「彼は話すことができない、から、代わりに僕が、話をするよ」
 餌を待つ魚のように人形は口を開閉させる。
「あなたたちは救いを求めています、それぞれに理由はある、けれど、救いを求めていることだけは同じ、皆、同じ」
 群衆は無言でうなづく。いま、救われればさえ良いのだ、鎮痛剤でも麻薬でも良いのだ、この夜を越えることができればいいのだ。

「さっき。ラクダから仕事を奪ったロールスロイスに放火したのは、僕です。売春宿で少女を買おうとした男を銃殺したのは、僕です。少女を売ろうとした母親も撃ったんだけど、急所を外してしまったので、少女にナイフを渡しておきました」

 ぎくしゃくと息継ぎをしながら、人形はそこまで話し、突然、首を垂れた。関節が外れ、落ちた首が雪の上に埋まった。
「次はあなたたちを救ってあげます。明日からまた戦争が起きます。誰も助からない破滅的な戦争です、それで、あなたたちは救われるでしょう」
 頭頂から落ちた頭は口だけがいまだ動いている。

 少年は帽子を脱ぐ。そして眼を開ける。瞼は薄く、上へ閉じ下へ開く。
 瞳孔には刺し傷のような細長く赤い光が宿る。 それは蛇の眼だった。
 彼はポケットから半月状の小さな銀を取り出す。唇に添えると単調な旋律が鳴り始め、そして群衆はいま暴徒に変わる。

 人々は救われたのだ。




【了】  







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