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2014-12-24 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル end ~わたしの願いごと」


「例えばね」、彼女の声が聞こえた。いつから聞いていないんだろう。
 分からない。分からないけど、それは花の香みたいに胸の奥にまで届いてくる。
 
「あのとき、砂時計は止まらなくて。いつもの朝が訪れて、いつもと同じように君に逢えたとするでしょう」

 隣にいたときはそれが当たり前だと思ってた。毎日ふたりでいることや、特別なことなんてなくっても幸せかもしれないって思うときもあった。

「きっとそんな幸せだってあったはずだって思う。私たちはそうじゃなかったけれど、そんなふうに生きてきた人はたくさんいるわけだから」

 そうだね。でも不幸だとは思わない。そんなふうに思いたくないんだ。
「ねえ。僕たちは離れ離れになっちゃったけど……でも、でもさ」
 そのあとが続かなかった。逢えないけれど、なぜかすごく近くにいる。そんな気がする。

 僕はオルゴールのネジを巻く。そして明けないままの空を見上げた。
 ふわりふわりと踊りながら落ちてくる白い一輪。それは窓辺に咲いた一輪によく似ていた。

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「ねえフラウ。君はまだ歩く? まだ探せる?」
「いつか迎えにゆくから。待たなくていいから。いつかきっと……」
 いつかきっと、どこかの遠い朝で。

 僕は思い描く。
 あの懐かしい夜明け前の砂時計の街を。荷物を抱えて歩き始めた、未来を迎えにゆくリヒーナの姿を。
 彼女がまた、同じ景色を見ているように。

 砂時計は止まり、夜明け前で止まってしまった時間。太陽が差さなくなった世界は静まり、氷は溶けず、花は枯れて、鳥たちは東へと飛び、やがて人々は言葉を失くしてゆきました。
 昇らない太陽。それは神様の消えた世界と言われました。
 季節は真冬だけになり、生まれてくるよりも失われてゆくものが多い時代。
 やがて、祈ること、願うことは忘れられ、人々は安息の地を探して歩き続けるしかなくなってゆきました。
 真夜中よりも寒く、かすかな光でにじむ視界。待ってはいられない未来へと手を伸ばす人々。

 二度と交差することがなかったとしても、それでも時間は止まらず、巻き戻すことはできません。

「約束がね……まだ果たせていない約束があるんだ。僕の声は届いてる?」
「うん。聞こえるよ。だから歩いてるんだよ、君も私も」
 朝は遠くて、繋ぐはずだった手。触れようとして触れられないままの手。
 ふたりはお互いが見上げているはずの空に、光る星にいつかの朝を思い描いているのでした。

 少年はオルゴールのネジを巻き、鳴り始めた音楽に合わせて歌う少女を描いた。
 少女は止まった砂時計を振り返ることもなく、未来へと歩き始めたばかりだった。小さな手のひらが重なり合う未来を祈る。
 ふたりは同じ方向に向けて走り始めた。

 「君に逢える未来のために」

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<おわり>


Merry Christmas. To you, dear readers.
〝LOVE & PEACE〟

2014.12.24 Billy tanaka



【著者指定テーマ曲】
YUKIさん / わたしの願い事 (YouTube Official Channel)







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2014-12-23 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #9」


「君はいま、どこへ向かって歩いているの?」
 僕は少し考えてから答える。
「未来。うん、未来なんだと思う」
「未来って?」
「僕たちが笑顔でいられるはずの、いまより少しだけ先にある場所」
「そこにはたどりつける?」
「たどりつけるまで歩くって決めたから」
 東へ東へと僕は歩き続けている。まっすぐ前にあるのは夜明けのかすかな太陽の光。大切な人の笑う顔。
 いまの彼女を思い描くことができる、そんな気がした。

『いつか。
 リヒーナ、いつか、僕は戻るよ。いや、戻るんじゃない。過ぎた時間は戻ったりはしない。夜明けが遠くて遥か未来になったとしても、僕は必ず君の待つ街へたどりつく。
 オルゴールを鳴らすたび、いつだってその音色が僕を連れてってくれるんだ。いつかの、夜明けに』
 そこまで書くと、もう続きは言葉にならなかった。


 人は夜明けを待つことなんてできなかった。どこにあるのかさえ分からない太陽を探して、誰も彼もが街を離れた。

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 私は……私はいま、君から届いた手紙を読み返してから、それを大切にバッグのなかに入れた。もちろん、オルゴールだって入ってる。
 私もゆく。君と君が探してる未来を迎えにゆく。

 この街から遥か遠い東の土地。黄金の砂が流れる大河をたどれば、君が歩いたはずの足跡をたどれば、そこでまた逢える。

「聞こうと思えば、ちゃんと聞こえるんだよ」
「うん。僕にも聞こえてる」
「たくさん話したいことがあるよ。街のこと、君が旅立ってからのこと……私のことも」
「それはいつになるかな?」
「いつか、また、未来で」
 思い出のなかのフラウと話しているつもりだったのに、君の姿はこの街で過ごしたころの君とは違ってた。少し大人になって、声も変わりつつあった。
 私だってそう。
 待ってるだけじゃなかったんだよ。ちゃんと生きてた、毎日を生きてたんだ。
「じゃあ、いつか、未来で」
 手を振ると幼い彼は光のなかに溶けてゆく。

 私もまた旅に出る。
 未来を迎えに行った君を迎えに。

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【つづく】







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2014-12-22 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #8」


 どれくらい眠っていたのか分からなかった、目覚めた私は窓の外の景色に目を凝らしていた。
 窓際にはオルゴールが開いたまま止まっていて、フラウと交換した日のことを思い出す。

 薄く暗く、かすかに白い光が見える。変わらない夜明け前の風景。眠りから覚めない世界は静かで、誰かと話していないとひどく不安になる。

 時間のことを思う。
 フラウが旅に出てからどれくらい経ったんだろう。この街だけじゃなく、世界中が夜明け前なのだとしたら、ゆける場所は限られてるのかもしれない。

 水族館の小さなサカナたちみたいだ、そう思った。自由にどこへだって泳ぎ回ることができるものだと思ってる、けれどほんとうは同じところをぐるぐると廻り続けているだけ。

「海のなかにいるみたいだ」
「……海?」
「この空の色って、深いところから水面に顔を出す少し前くらいみたいだって思ったんだ」
 そう言われたらそうなのかな。朝が途絶えたばかりのころ……そう、まだフラウがこの街にいたころ、そんなふうに言っていた。
「いまの私たちみたいだよ」
 オルゴールにそう話してみる。ネジを巻いて抱き寄せて耳のそばで歌ってもらう。

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「元気?」
「私は元気だよ。君は?」
「街のみんなは?」
「街のみんなは……あきらめて離れる人も多いよ。神様ってね、太陽のことだったのかもしれない」
「太陽が神様?」
「冬の朝の……ほら、柔らかいカーテンみたいな光のことを神様が微笑んでるって聞いたじゃない。神様が微笑んでくれなくなると幸せが逃げてくんだと思う」
「ねえリヒーナ。砂時計のない街にも朝はないんだ。太陽が昇る東に向かって歩いてるのは僕だけじゃなかった……」

 風が吹いた、オルゴールは止まっていた。夢のなかで話していたのか、そうじゃないのか分からなかった。
 だけど。
 だけど、息づかいや静かな話し方、懐かしい匂いは気のせいだとは思えなかった。

「奇跡は起きるんだ、いままで毎日起きてきたように」

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【つづく (あと2回やで) 】







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2014-12-21 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #7」


 東へ、東へと。
 僕は歩き続けていた。風が背中を押してくれたような気がしたときは、ふと来た道を振り返る。
 砂時計の街、僕が生まれ育った街。朝を待つ彼女がいる街。
 川に流れた金の砂を追って歩き続けてきたけれど、いまもまだ朝にはたどり着けないでいた。

……聞こえる?
「え?」
 僕は耳を澄ませる、風に散らされる砂と葉と。背中に届いた懐かしい声。
 空耳かな、そう思う。あたりには誰もいない。立ち止まる、そして目を閉じた。ふと浮かぶ笑顔とリヒーナが僕を呼びかける声。

「聞こえるよ……うん、聞こえてる」
 受けとめる相手がいない言葉はぽつんぽつんと足下に落ちて、その上を砂が通り過ぎてゆく。


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 オルゴール。
 ずいぶんくたびれたバッグからオルゴールを引っ張り出した、たくさんの声をひとつひとつ浮かべてゆきながら、オルゴールのネジを巻く。
 いつかふたりで聴いた懐かしい歌がつたなく、淋しく聴こえた。

「こんなに楽しい歌なのに……」
 それに合わせてハミングをしていた彼女の横顔は夕陽に頬を照らされていて、僕はじっと見つめていることができなかった。
 なのに、ふと見た一瞬はいつかの記憶じゃなく、いまも彼女がすぐそばにいるような気持ちになる。
「ずっとそばにいてくれたんだ……」

 出しそびれた手紙の束はしわくちゃになっていた。僕は僕が思っていたより、きっと彼女が思っていたより遠くに歩いてきたんだ、そして、いつ帰れるのかも分からない。

 故郷を遠く離れても、世界は夜明け前で止まってしまったままだった。

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「おはようって言い合えるって幸せだと思わない?」
……うん。当たり前のことだとばかり思ってた。
「こんなふうになんでもない時間を笑ってられるって素敵じゃない?」
 いまはそれがよく分かるんだ。

「当たり前のことなんて、昨日と同じ朝がくるなんて、そんなこと決まってなんてないんだよね」
「毎日、奇跡の連続だもの。誰かに会ったり、ごはんを食べたり……。君とオルゴールに合わせて歌ったり、ね」
「いつかまた戻れるかな?」
「私たちの街に? それとも朝がこなくなる前の世界に?」

 いつの間にかオルゴールは止まっていた、いつも隣にいてくれていた、僕はリヒーナと話していたのか、それとも幻と話していたのか、よく分からなくなっていた。



【つづく】







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2014-12-20 18:30 | カテゴリ:砂時計のクロニクル
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「砂時計のクロニクル #6」


「……手紙」
「え?」
「手紙、書いてくれる?」
「うん」
「気をつけて……絶対に帰ってきて」
「うん。約束する」
 私たちが見つめる先には動かなくなった砂時計がぼんやりと浮かんで見えた。止まってしまったそれは街に大きな影を落とし、私たちの影は溶け込んで見ることができない。
 夜明け前の薄暗い世界は深い湖の底にいるようで、覚束ない足下は、次の一歩を爪先が探している。

 フラウが旅に出た日のこと。
 どこにゆくのか、どれくらいの時がいるのか。私はそれを聞かなかったし、彼も話そうとしなかった。どうして聞かなかったのか、よく覚えていない。
 ほんのわずかな光に浮かんだ横顔だけはずっと覚えてる。

 きっと遠くを見ていたんだろう。
 あまりにも見慣れてしまって、すぐそばにいる彼がずいぶん大きくなっていることにさえ気づかなかった。
 朝が来なくて時間が止まったんだと思っていた、だけど、生きている私たちの時は止まることがない。毎日変化してゆく。
 ほんのわずかな一瞬でさえ、私たちは変化してゆく。


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 目覚めを忘れても、それでも世界は続いていた。
 人より身軽で自由な生き物たちから姿を見なくなり始めた、鳥は遥か遠くへ群れて薄闇の空を走り、花は一輪ずつ散って、私たちの住む街は冷たい風が吹き抜けて、笑顔を失くした人々はやがて外に出なくなった。
 街は静かで……あまりに静かで、話し声さえ聞かなくなった。

「聞こえる?」
 私は空に問いかけた。窓の外の景色は変わらない。日が経つにつれて朝の温もりをどこか忘れてゆきそうな自分を知っている。
 笑顔で逢うことのできた、当たり前の日々を遠くに思う。
「変わりはない?」
 星はなく月は眠り、目覚めないままの太陽と、街を離れてゆく人々の姿が見える。

「おはよう、いま、君がいる場所には朝がある?」

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【つづく】







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