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2012-08-19 20:00 | カテゴリ:短篇小説「祈り火と過ぎる夏」
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祈り火と過ぎる夏<1>
祈り火と過ぎる夏<2>
祈り火と過ぎる夏<3>
祈り火と過ぎる夏<4>
祈り火と過ぎる夏<5>
祈り火と過ぎる夏<6>
祈り火と過ぎる夏<7>
祈り火と過ぎる夏<8>
祈り火と過ぎる夏<9>
祈り火と過ぎる夏<10>


 夏はもう残りも少なくなって、そのわずかな力を絞るように地上を照らしていた。
いまこの瞬間もどこかで誰が死を迎え、入れ替わるように新たな命が誕生したはずだ、それは繰り返し再生を続ける世界そのものの在り方とも言えるかもしれない。

 ミズキは東京に戻り、いまはまた元の生活を続けていた。そしてまたひとつ年齢を重ね、20代も後半を迎えた。
あの夜と明け方に見た大輪……そう、集まった人々が祈りを託したあの太陽は今日もまだあの日と同じように遥か上空で輝きを続けている。
見上げるとあまりにまばゆく、目を細めて左手で日陰をつくる。
垂れ下がった銀色のチェーンの時計は正午を指していた。

 あの日はまるで何かが始まり、何かが終わる、その両方を一度に経験したように記憶している。
 父とは会っていない。
彼には彼の新たな生活があり、すれ違った私たちはまたそれぞれにそれぞれの道を歩く、そう思うことができる。
道行く人々は相変わらずの日常を過ごしているようで、きっとそうでないんだろうとミズキは命というものを思い描く。

 昼食を終え、再び会社に戻る、次の取材先やその土地、プランを書き連ねたファイルを開こうとすると、見覚えのないメールが届いていることに気づいた、それは土地の再生を誓って奮闘する一人の青年からだった。

<元気ですか? 僕は変わらず元気です。まだまだ時間はかかるし、この先がどうなるかは分かりません。でも、この土地に生きることを選んだ者として、また新しい種をまき、少しずつ咲く花を見守り、いつかまた……いや、以前と同じには戻らないけれど……それを承知でゆっくりと歩いていきます。
また、祈り火の季節に会いましょう>

 その手紙を息もつがずに読み切ると、ミズキは大きく深呼吸して目を閉じた。
また生きる。まだ生きる。
どちらでもいい。生きることには違いない。
カメラを手にして、彼女はまた取材にゆく場所のピックアップ作業にとりかかった。
生きている限り、止まってはいられないのだ。


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<終わり>



photograph,illustration and story by Billy.

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2012-08-19 19:57 | カテゴリ:短篇小説「祈り火と過ぎる夏」
祈り火と過ぎる夏<1>
祈り火と過ぎる夏<2>
祈り火と過ぎる夏<3>
祈り火と過ぎる夏<4>
祈り火と過ぎる夏<5>
祈り火と過ぎる夏<6>
祈り火と過ぎる夏<7>
祈り火と過ぎる夏<8>
祈り火と過ぎる夏<9>


 それぞれが持ち寄った花火たちは残り少なくなり、そして見知らぬ同郷の人々、この地に縁のある人々はぽつりぽつりと自らを語り始めた。
ある人は生まれ育った地であり、現在は他の地にて生きている。
またある人はこの地に生き続けてきたが、今回、別の土地に生きることを決意したと言う。
迷いはあるが、今後を考え、土地の再生に余生を費やす覚悟があると話す老夫婦がいて、しかし、それにどれくらいの時間が必要なのか、それは分からないとこぼした。

 最善であるべきこと、それは誰にも分からない。
今日を生き延びた、しかし、明日が無条件に用意されているとは限らない。

「もともとは……」
 ソウスケは遠く昇り始めた太陽に向けて話しはじめる。隣にいるその横顔が赤い陽に照らされ、徐々にはっきりとしてゆく。
伏し目がちな眼差しと、こけ落ちた頬。もつれた少し長い髪。
ミズキはその青年のかすれた話し声を目を閉じて聞いている。

「祈り火の祭はもともと、この地に生きて亡くなったご先祖に生きた花を流して海に送るのが、そのはじまりだったらしいんです。あまり知られていないけれど、ここは農地にも漁場にも向かなくて、それを人が住める場所にしたのがご先祖さまたちだから。いつの間にか村興し、町興しの祭になって、少しずつかたちを変えてしまったんですけど……」
 小舟に灯火を浮かべて祈る、願う。ずっとそう思って祭を見てきた。ミズキはその歴史を知らなかった。
「じゃあ、いまの祈り火の祭は、先祖の方々にはあまり喜ばれないかもしれないね」
「そんなことはない」
 ソウスケは即座に返す。やや語気を強めたが、ミズキに向けられたのは精一杯の笑顔だった。
そんなことはないよ、ソウスケはもう一度、そう言った。
うん、ミズキはただそれだけを返す。

「ほら、また新しい日が来た、祭ではなかったけれど、祈り火そのものかもしれない。ね?」
 立ち上がったソウスケは誰かにではなく、自分に告げるように、けれど、その場を共にする人々にも伝えるように、東に浮かび上がる大輪を指差した。
その背中をミズキはいつまでも記憶していようと見続けていた。


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story and photograph by Billy.


2012-08-19 19:55 | カテゴリ:短篇小説「祈り火と過ぎる夏」
祈り火と過ぎる夏<1>
祈り火と過ぎる夏<2>
祈り火と過ぎる夏<3>
祈り火と過ぎる夏<4>
祈り火と過ぎる夏<5>
祈り火と過ぎる夏<6>
祈り火と過ぎる夏<7>
祈り火と過ぎる夏<8>
祈り火と過ぎる夏<9>


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 突堤には数多くが集まっていた、その多くは災害によって住む場を追われた人々だったが、それでも、彼ら彼女らは生きた土地を慈しむよう、そして慰めるよう、傷にまみれてこの地に集う。
 この世界で最後の海岸、そんなふうにミズキには思えた。
彼女の傍らにはかつての父が松明を手に祈り続けていた。
彼にはすでに別の生活があり、そこにはミズキの知らない場所がある。

「〇〇さん、あなたはいま、何を祈るの?」
 ミズキは父だった男に尋ねた。あの広く大きな背中はない、すでに老いを迎えはじめ、弱々しささえも漂わせている。
時間は止まることがない、ミズキはすでに父だった男よりも強く立つことができる。

「何を祈ればいいか、実はよく分からないんだ」
「それは私もおなじ、小さなころからそうだった、みんなが何を祈り、願うのかが分からなかった」
「そうか、祈り火なんて言っても、漠然としたもんだな」
 男は自嘲気味に笑う、ミズキはそれには答えず、人々が持ち寄った花火の一本に火をつけた。

 あたりは暗い。月の光、そしてそれを反射する海が微かに映る。
まるで世界の終わりだ、ミズキはそう思う。奇跡的に生き延びた私たちが最後の祝祭をするかのように、静かで誰の声も弱々しい。


「火を借りてもいいですか」
 ソウスケはじっと光の行方を見守る女性に近づいた。
彼女の姿はこの田舎にそぐわない、きっと故郷を離れて生きているんだろう、でも、その視線には抱えた痛みを堪える強ささえ感じた。
 どうぞ、ミズキはその男にライターを手渡した。それを掴む彼は力強く、盛り上がった筋肉が二の腕からうかがえた。
 ソウスケはその火をもって、明け方近く、点り始めた空に祈りを託すよう、最後の花火に火をつけた。




photograph and story by Billy.
2012-08-19 19:52 | カテゴリ:短篇小説「祈り火と過ぎる夏」
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祈り火と過ぎる夏<1>
祈り火と過ぎる夏<2>
祈り火と過ぎる夏<3>
祈り火と過ぎる夏<4>
祈り火と過ぎる夏<5>
祈り火と過ぎる夏<6>
祈り火と過ぎる夏<7>


  農地としての再生には相当な時間がかかる、それがソウスケらの結論だった。先祖代々、この地で農業に従事してきた彼にとっては生き方そのものを抜本的に見直す必要のある決断だった。
久しぶりにタバコをくわえた。もう、この地からは離れなければならないだろう。他の地でなにができるかなど見当もつかない。
  だが、生きてゆく以上、この地を離れざるを得ない。なにもなくなったんだ、ただその言葉が体の内側に響き続けた。

 なにができるのか、なにをなすべきか。
それははっきりと答を導き出せていない。
だけど、このまま故郷を離れるわけにもいかない、それだけは分かる。
ソウスケはまぶたに描く。祈りに充ちた光が暗闇に浮かぶ、あの瞬間を。


「やらないか、祈り火」
 電話口で父はそう言った。あの日、再会して以来、数日ぶりに聞く声だった。それ以前は20年近いブランクがある。
父だという認識はあまりなく、かつて父であった初老の男としてミズキは距離をつくっている。
アパートの外は夕の刻の赤みがかった空で、太陽は溶けて落ちてゆく。
その景色のなかに赤とんぼが舞っているように見えた、最初はそれが赤とんぼだとは思わなかった、そんなものを見つけることがあまりなかった。

「祈り火……?」
「ああ」
「今年は中止だって聞いて、それでもうこっちに帰ってきたんだよ」
「祭は中止だけど。でも、祈り火ならできるだろう、君も僕もあの土地に住むことはもうないかもしれないが、それでも、生きた土地なんだ、そのことには変わらない」
 父は母と私を置いて出て行った、あの光に消えた背中の残像がなんども頭に浮かんでは消える。
その父が祈り火をやろうという。何をどうするつもりかは分からない。

「……分かった。やります、祈り火」
 意味もろくに飲み込めないまま、ミズキは再び故郷へゆくことを決意した。




photograph and story by Billy.
2012-08-19 19:50 | カテゴリ:短篇小説「祈り火と過ぎる夏」
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祈り火と過ぎる夏<1>
祈り火と過ぎる夏<2>
祈り火と過ぎる夏<3>
祈り火と過ぎる夏<4>
祈り火と過ぎる夏<5>
祈り火と過ぎる夏<6>


  祭が中止になることを知ったミズキは東京へと帰り、当たり前のはずの日常へと埋没していった。
すでに秋の気配が色濃く漂う故郷と違い、まだ東京には夏の太陽が空にしがみつくように残っていた、それを不思議にも思わなかった。旅に慣れたのではなく、旅することが当然になると、見た景色の変化を受容するのに戸惑うことがなくなる。
 私は新聞記者ではない、ミズキは自分に言い聞かせる。

  私は祭に活気づく町の高揚を写真にし、記事にするのであって、それがいくら生まれた土地であっても、崩壊の危機にある村を追うのは自分のやるべきこととは違う、くすぶる何かを胸に抑えながら、忘れたふりで生きるべき日常にいる。

通り過ぎてゆく。
私はいつも通り過ぎてゆくのだ。深いため息と共に、見慣れたパソコンの画面を睨む。


 何度も通り過ぎてしまうと麻痺してしまうような気がした、いかに激しい変化であれ、そのなかに身を投じてしまうとどこか他人のような気分にもなる。
ソウスケは自宅があったはずの周辺を片付けながら、そこに痕跡を探し求めた。ここに生きたものの痕跡だ、水に濡れて色をなくした写真たちや春になれば花をつける庭の梅の木、そして納屋に収納されていたはずの農機具。
  なにひとつ残されていなかった。始めたばかりのゴルフクラブ数本が見つかったが、使い道も必要もない。
墓標代わりにそれを土に突き立ててみる。柔らかく緩んだ土はしばらくそれを立ててくれたが、やがて力を失い倒れていった。

くそっ。
誰ともなく吐き捨てる。あちらこちらで似た声が聞こえた。ひと気は少なくも、ここはやはり人が生きた場所なのだ。

  祈り火の季節。
もうそれも中止が決まった。だけど、いまこそ必要な、そんな気がする。
ソウスケは思う。
  この土地に暮らし続けるのはもう無理だろう、世代を超え、土がまた生き返るまではこの地に花は育てられない。薙ぎ倒されたミカンの木々、ビニールハウスに絶えた花々。
  この地を愛し、留まり続けた者として、祈り火を燈そう、いま、それをするべきだと彼は思った。




photograph and story by Billy.
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